「よお売れっ子DJ」

 ぽんっと肩を後ろから叩かれる。にやにやと笑うのはヒロさんだ。

「もうからかわないでくださいってば」

 そう言えば彼は楽しそうに笑った。夜の番組を担当して2ヶ月ちょっと。やっと少し慣れてきたところだ。売れっ子なんかではないけれど、今の所番組は好調らしい。
 まだまだ緊張するけれどリスナーの声に耳を傾けて番組を進めていく楽しさ。優しくあたたかいリスナーのみなさんからの言葉。時には厳しくありがたい言葉。リポーターコーナーではリスナーさんとのやりとりはなかった為、この番組で初めてそういった関係作りを学んでいる最中だ。難しい、そして楽しい。直接顔を合わせてではないし、声で直接会話するわけでもない。それでも確かにそこに人間関係は成立している。見えないけれど、確かにそれはそこにある。私に向けてメッセージを送ってくれる人は確かにこの世界のどこかにいてくれて、私の声を受け取ってくれる人もこの世界のどこかに存在しているのだ。
 ラジオというのは想像していたよりもずっと不思議で、そして奥深い世界だった。

 こんな風に番組を持つようになって改めて思うのは、ユージさんの偉大さだ。リスナーが毎回メッセージを送りたいと思うようなトークを展開していくのは簡単なことではない。顔は見えなくても、この人に聞いて欲しいと思う魅力がなければ誰もメッセージなんか送ったりしないのだから。

「お前、最近ユージさんに会った?」

 唐突に放たれたヒロさんの言葉。特別な人の名前が出たことに私の心は大きく揺れた。局内で偶然会った時以来、ヒロさんの口からその名前が出たのは初めてのことだ。

「会ってないですけど……」

 そう、あの日以来ユージさんには一度も会っていない。ミッドナイトスターは聞いているし、わたしの番組に抹茶メモさんからメッセージが来ることも稀にある。しかし、それが絶対にユージさんかと言えば、わたしの憶測に過ぎない。そしてもちろん、バイト先にも彼は訪れていない。
 ふうん、とヒロさんは何か考えたような顔をすると、まあいーやと手を振って行ってしまった。
 なんだったのだろう。小さな疑問は、あっという間に消えてしまった。