「毎週金曜日の音楽番組、メインパーソナリティが産休に入るんだけど。やってみる気あるか?」

 あれから1年という月日が流れていた。担当コーナーも好評で、単発の仕事もいくつかもらい始めた頃だった。プロデューサーが、メガネを持ち上げながら私に聞いたのだ。

 週の音楽チャートを軸にして、メッセージやリクエストなども受け付けている生放送番組。一定期間の代理とは言え、まさか自分がメインで番組を任せてもらえる日が来るなんて。

「はい!!精一杯頑張ります!よろしくお願いします!!」

 勢いよく頭をさげれば、プロデューサーは満足げに頷いた。

 私はいまでも、ミッドナイトスターのヘビーリスナーだ。メッセージは相変わらず送っていないけれど、見習いパーソナリティとしてユージさんのトークや返し方からたくさんのことを学んでいた。時間帯が合わないからか、ユージさんとはあれ以来直接顔を合わせていない。だけどきっとどこかで、わたしの声を聞いてくれているんだと思う。きっとどこかで、見守ってくれているんだと思う。わたしは、ひとりじゃない。見守ってくれて、支えてくれて、そして応援してくれる人たちがいる。いつか、ミッドナイトスターのリスナーさんたちにも胸を張って報告したい。

 椅子に座り、ヘッドフォンをつける。ガラスの向こうの番組ディレクターが小さく頷いてキューを出したのを見て、私は小さく息を吸った。

「みなさんこんばんは、そしてはじめまして。DJタピーです。今日から期間限定でこの番組を担当させていただくことになりました。よろしくお願いします」

 軽快なBGMに声をのせる。緊張はもちろんする。だけどそれ以上に楽しくてわくわくする。ちらりとガラス窓の向こうを見れば、ディレクターがOKマークを出しながらパソコンを指差した。メッセージを読むタイミングだ。ディスプレイには送られてきたメッセージが表示される。ユージさんもヒロさんも、こんな風にメッセージを受け取っていたのか。

「ではメッセージを紹介しますね。うわあー私にとって記念すべき初メッセージです!ラジオネーム匿名希望さん。
『タピーさんメインパーソナリティおめでとうございます。初めてメッセージを送ります。ラジオネームが考えつかないのですがラジオネームをつけてもらえませんか?』」

 ぶわりと懐かしい記憶が蘇る。ドキドキしながら大好きなあの人の番組に、初めてメッセージを送った時のこと。ラジオにメッセージを送ること自体初めてで、わたしはラジオネームも考えられなくて、そして── あの人に、ラジオネームをつけてもらったのだ。
 脳裏に浮かぶ、やさしい笑顔。 口元に浮かぶ、ふたつのエクボ。 照れたように下を向くその仕草。 分かってしまう。 分かってしまうんだ。 このメッセージをくれた人は──

「匿名希望さん、メッセージありがとうございます。ラジオネーム、つけさせていただきますね。 “抹茶メモ”さん、でどうでしょうか?」

 聴こえていますか?
 わたしはあなたに追いつくために、一生懸命走っています。
 だからどうか。 もう少し、待っててください。
 必ず追いついてみせるから。