こくんと一口自家製コーヒーを喉に流し込んでからメッセージを開くと、そこには短い文章が映されていた。

“今日、あの子の誕生日だよ”

 その文章の下に、知らない電話番号。あの子、とは。間違いない。カフェ子ちゃんのことだ。そしてこの番号は、きっと、多分、いや絶対──新しい、彼女の番号だ。

 ドキンドキンと心臓がうるさく高鳴る。電話をしてみていいのだろうか。誕生日なのだから、彼氏と一緒にいるのではないか。いや、チーフが送ってきたということは、彼氏とは別れたということなのか。ぐるぐると頭の中で様々な憶測がまわる。
 いや、もう考えるのはよそう。もしかしたら、会えるかもしれない。いや、会えなくてもいい。

 部屋着のパーカーにジーンズだけ履き替えて家を飛び出した。前に一度だけ、母の日のプレゼントを買ったことがあった、あのカフェのそばの花屋を目指す。彼女にはどんな花が似合うだろう。誕生日に花束だなんて、キザすぎるかな。最近の若い子は、花なんかいらないだろうか。いやそんなことよりも、彼女に俺は、会えるのだろうか。

 いらっしゃいませ、と年配の女性が声をかけてくれる。どんな花をお探しですか?と。花についての知識なんて、まったくない。

「綺麗で、凛としていて、落ち着いていて、だけどかわいらしさもあって。そんな人に贈りたいんです!」

 もうずっと会っていないのに、頭の中には彼女の笑顔や優しい声や甘い香りがあふれ出す。気付けば必死にそんなことを口にしていた。
 店の女性はふわりと淡いピンク色をした牡丹のように微笑むと、幸せなお嬢さんがこの世の中にはいるものねと言いながら、色とりどりの花を数本ずつ、活けられた容器から抜き出した。

 ──こんな俺から突然花束をもらったら、きみはどんな顔をするのだろう。

 カサリと音を立てる、綺麗で凛としていて、それでいてかわいらしいオレンジを基調とした花束をじっと見つめる。すうと深呼吸をして、勢いのままに表示されていた番号に電話を掛けた。