「……アンタ?今回のリポーターなったのって」

 ちろりと横目で見られて背筋が伸びる。話には聞いていたものの独特のオーラに怖気づきそうになる心をぐっと奮い立たせた。

「はい!よろしくお願いします!」

 ぺこりと頭を下げると、先輩パーソナリティのヒロさんはよろしく、と短く言った。私がもらった初めての声の仕事。それは、DJヒロさんの番組内にあるコーナーのリポーターだ。様々な職業の方々を訪ね、インタビューをするというもの。ヒロさんの番組自体は生放送だが、私の担当するコーナー自体は別日に収録したものが流れるということになっている。

「……ふうん」

 ヒロさんは私を頭の先から足の先までじろりと眺めると、「しっかりやってくれればそれでいいよ」と短く答えた。番組内でも淡々と話すパーソナリティだが、実際はさらにクールさが増すらしい。

 慌ててお辞儀をしたところで、頭上から「おう」というヒロさんの声が降ってきた。それはもちろん私に向けてではない。つられるように小さく振り向いた私は、呼吸をすることを忘れてしまった。ばっと勢いよくヒロさんの方に向き直り、わたしは直立不動になる。

──そこにいたのが、ユージさんだったのだから。

「今日これから?」
「CMの声録りがあってさ」

 私を通り越して飛び交う会話。するとヒロさんが、ああ、というように私に声をかけた。

「お前もパーソナリティの端くれなら知ってんだろ、ユージさんのこと。挨拶しろ。こいつ、うちの番組のショートコーナーの新しいリポーター」

 ヒロさんの言葉に、私はおそるおそる体を反転させる。

「……このたび、リポーターを務めることになりました……」

 自己紹介をして頭をさげれば、ユージさんの黒いスニーカーだけが視界に映る。顔をあげるのが怖い。だけどこのままじゃ不自然だしと、ゆっくりと姿勢を正せば、驚いた顔をして固まるユージさんがいた。

「……なにこの感じ。もしかして知り合い?」

 そんなヒロさんの声を聞き、ユージさんははっとしたように少し揺れてからふわりと笑った。

「あ、いや……はじめまして。ユージです」

 ぎゅうっと胸の奥が掴まれる想い。久しぶりに見る、彼の笑顔。ハジメマシテ。その言葉がぐさりと刺さった。

「リポーターやるんだって?」
「あ、はい」
「頑張ってね」
「ありがとうございます……」

 それじゃと手を上げると、ユージさんは私の脇をすり抜けて、廊下を進んで行ってしまった。ばくばくと心臓が鳴る。

「……お前、ユージさんと何かあるだろ」

 鋭いヒロさんの指摘に私は何も答えられない。この人、すごく察しがいい。しかし彼は、まあいいやと深くは追及してこなかった。

「せっかく貰ったチャンス、無駄にすんな」

 ヒロさんは最後にわたしの肩をぽんぽんと軽く二回叩いて、控室へと消えていった。