「みなさんこんばんは。月曜深夜いかがお過ごしでしょうか。DJユージです」

 あれから初めての月曜日、私はバイトを休んだ。レッスンがあったわけではない。体調が悪かったわけでもない。だけど、なんとなくユージさんに会うのが気まずくて、バイト仲間にシフトを交換してもらった。

 ユージさんは今日も、スタジオに入る前にお店に来たのだろうか。抹茶ミルクタピオカを頼んだのだろうか。一週間が経っても私はまだ、彼とどう接したらいいのか分からない。

「この間は生放送にたくさんのリスナーさんが来てくれて、嬉しかったです。やっぱ顔が見えるってすごいね」

 ラジオからはいつもと変わらないユージさんの声が聞こえてきて、心臓がぎゅっと痛くなる。本当は今日も、聞くつもりはなかった。それでも時間になれば習慣のように、私はチューンをあわせていた。聞こえてくるユージさんの声。これはずっと憧れてきたDJユージさんの声だ。
 私はこんなに心を乱し、バイトまでわざわざ休んで、気持ちもざわざわしているのに、ユージさんは何も変わらない。当たり前のことなのに、なんだかそれが悔しくて、なんだかとても切なくて、メッセージなんて送る気にもなれない。ラジオの向こうではリスナーさんからの最近あった滑らない話が読まれていた。
 ところが、番組が終わる頃にはすっかり夢中で聞いていた。それは彼が誰なのかとか、自分の今持っているもやもやとか全て関係なく、結局は彼の作り出す世界に引き込まれてしまったということだ。それに気づいたときに、改めて思った。やっぱり、この人はすごいパーソナリティなのだと。
 それはつまり、彼がどれだけ自分のいる世界とは違うところにいる人なのか、どれほど遠い遠い存在なのかということを改めて思い知らされたということでもあった。

 私はパーソナリティになりたいと、ユージさんと共演したいとそう言った。だけどそれがどんなに大きすぎる夢なのかということを痛いほど感じる。それと同時に、“憧れ”と“すき”はまた違うのだということに、私は気付きだしていたのだった。