「さて、今夜もメッセージたくさん紹介していきたいと思います!なんかね、最近メッセージの量が増えてきてるんだよね。ありがとう!僕らとしては、みなさんと一緒に作っていく番組だって思っているので。今日あったちょっとしたこととか、こんな夢みたよとか、この音楽最高だから聴いてくれとかね。本当気軽に送ってもらいたいんだよね。
 おもしろいこと言えないからなぁとか考えなくていいからね。もらったメッセージで、どうやって展開していくかっていうのが僕の役目。僕の力量にかかってるってことで、まあ若干不安なとこもあるけどね。あ!ディレクター笑うなよなぁ。──っと、では最初のメッセージご紹介していきましょう!

 ラジオネーム匿名さん。
『ユージさんはじめまして。ミッドナイトスター初回からずっと聴いていましたが初めてメッセージを送ってみます。今夜は本当に月が綺麗ですね。ユージさんが教えてくれなかったら気付くことも出来ませんでした。こうやって、毎日の小さなしあわせを見つけてシェアしてくれるユージさんの大ファンです』

 いやぁーありがとうございます!うわーなんかこういうの、自分で読むの照れるね。あ、もしかして自作自演なんて思ってるリスナーもいる!?違うよ!これはれっきとしたラジオネーム匿名さんからのメッセージなんだからね。──で、続きがあるんだ。読むね。

『今日はひとつお願いがあります。ラジオにメッセージを送ること自体初めてなのでまだラジオネームがありません。ラジオネームをつけてもらえませんか?』

 ──ということなんですが。ええっ、いいの?僕なんかがラジオネームをつけさせてもらってもいいのかなぁ。そうだな、じゃあ、いくつか候補をあげるからさ。その中から気に入ったものがあったら採用してください。気に入ったら、だからね。強制じゃないからね!じゃあいくよ?
 1、アボ・カド子
 2、タピ・オカ子
 3、パプ・リカ子
 このあたりどう?いやいやセンスないとか言わないでね。ぜひご検討ください!」

 ユージさんの笑い声がスピーカーから聞こえる。

 読まっ……読まっ……読まれたー!!赤飯!赤飯!赤飯を!今すぐに!

 スマホを握ったまま感情にまかせて小躍りをしていれば、机の角に足の小指をぶつけてしまいうずくまった。それでも痛みより、喜びの方がずっと大きい。私は部屋のドアを開けると、ステップを踏みながら階段を降りていった。

「お母さん!お赤飯!」
「なに突然」

 月曜深夜、夜型家族である我が家のリビングはまだ煌々とした灯りがついている。お父さんは仕事で朝早いためもう眠っているけれど、お母さんは一番リラックスできるフリータイムだと、この時間帯はソファでゆっくりと録り溜めていたドラマを見ている。

「赤飯炊きたいの!」
「彼氏でもできた?」

 母、娘よりもずっと上手。

「……できてない……けど!ユージさんにメッセージ読んでもらったの!」

 大興奮のままそう伝えれば、母はあらぁと目を丸くしてから視線をテレビへと戻す。

「生憎小豆ももち米も切らしてるの。明日買っておくわ」

 お母さんの言葉にわたしは小さく肩を落とした。せっかくの記念日なのに、赤飯も炊けないなんて。だけどないものは仕方ない。赤飯は次回読んでもらった時のために取っておこう。──だけど、その“次回”は一体いつになるのだろうか。

 スピーカーの向こうでは、ユージさんの軽快なトークがステップを踏むように流れていた。