煌々と明かりが灯るスタンドの前、あのひとは立っていた。

 こっち、と彼に言われるままその背中についていく。黒いキャップから覗く襟足はきれいに切りそろえられている。ほっそりとした手足が伸びる後姿。それでも肩幅はしっかりしていて、男の人、というのが分かる後姿。その後ろ5歩分のスペースをあけて、ついていく。この距離は、近いような、遠いような。彼がたまに振り返って足を止めるから、その都度私も足を止める。

 この距離を、保ちたい。遠ざかりたくない。だけど近寄りすぎたくない。

 自分でも分からない。うまく説明ができないのだ。だけどいま目の前を歩く人は私の知っている“星倉さん”ではなくて、ラジオの向こうにいた“DJユージさん”とも違う人のような気がして、どうしたらいいのかわからない。

 近くの公園にたどり着き、小さなベンチに腰を下ろすと彼はこちらを見た。おずおずと隣に座る。隣と言っても、ベンチの端。不自然な距離が空く。そんな私を見て、ユージさんは、参ったなと小さく呟いた。

「とりあえず、まずこれ」

 そう言って差し出されたカップを両手で受け取る。いつもなら、私が作る抹茶ミルクタピオカ。ちゅるるとストローを吸うと、彼は、ん?と動きを止め、カップを持ち上げて底や脇を眺める。味が違うということに気が付いたのかもしれない。私はいつも、ユージさんの分だけこっそりと濃い味に作っていたから。

「やっぱ、月曜日のやつが一番うまいね」

 ちゅるると私もストローを吸う。本当のことを言えば抹茶ミルクタピオカは好きじゃなかった。タピオカにはミルクティーって決まってるでしょ!なんて思っていたのに、今じゃ一番好きなドリンクは抹茶ミルクになってしまったのだから、本当に単純だとは思う。
 コホン、と彼は小さく咳払いをして、私に向き直った。