約1時間にわたるミッドナイトスターの枠は無事に終了。スピーカーからはエンディング曲が流れている。
 ガラスの向こうでユージさんが口ずさみながら拍子をとっているのが見えた。彼は、トントンと資料を片付けて立ち上がりガラスの方に向き直ると、手を振った。みんながギャーギャーと言いながら手を振る中、私は下唇を噛んでじっと彼を見つめることしか出来ない。みんなと同じように、手を振るなんて、そんなこと出来るわけがなかった。そんな私をユージさんは瞳に映すと、眉を下げて、困ったように笑う。そしてぺこりと頭を下げスタジオを出ていった。
 彼の姿が見えなくなると、途端に体の力がふにゃりと抜けてしまう。足元がよろけると、後ろにいた人が両肩を支えてくれた。

「大丈夫?」
「あ、す、すみません……」

 細くて白い男の人。

「貧血?プルーンあるけど食べる?」

 その隣にいた、背の高い男の人がポケットからプルーンの袋を取り出す。

「なんでお前プルーンなんか持ち歩いてんの?」
「誰のために持ってると思ってんの?毎日コタツばっかで久しぶりの外出だからと思って持ってきたんだから感謝しろ」

 よく分からない会話を前に、なんとか体勢を整えて深呼吸をする。

「あの、大丈夫です。ありがとうございました」

 無理しちゃだめだよ、と心配そうに眉を寄せるふたりに小さくお辞儀をすると、隣で心配そうに私を見るカフェ子に声をかけた。

「ごめん、バイト先行く」

 星倉さん──ではなくて、ユージさんに会わなきゃいけない。ユージさんの連絡先なんてもちろん知らない。彼について知っているのはいつも彼が足を運ぶタピオカのお店だけだ。カフェ子は驚いた顔をして私を見た。

「今日シフト入ってたの?」

そこで気付く。まだ彼女に何の説明もしていなかったということに。

「あのね、実はね」

 自分でもまだ現実味はない。小さな声で手身近に説明すれば、彼女は大きな目を更に見開いて口を抑えた。

「カフェ子だって行かなきゃでしょ?」
「……行きたくない……」
「キラキラさんにちゃんと会わなきゃ」
「だって失恋決定だもん」
「そんなの分かんないでしょ」

 カフェ子は考えてから、渋々と分かったと頷く。

「タピ子が頑張るなら、わたしも頑張る」

 ふたりでコツンとグーにした手を合わせた。

「健闘を祈る」
「同じく」

 ふたりで力強くうなずき合って、私たちは会場を後にした。

「今の子たち、ずいぶん気合い入れて出てったね」
「俺らも帰ろう」
「この後まだ俺みたい番組あるのに!DJピータンのハンサムアワー!」
「早くコタツ入りたい帰る」
「ええー」