ほんの数メートル先。大きなガラスを1枚隔てた向こうには、憧れのユージさんがいる。そんなユージさんが話す姿を、いまだに整理のつかまに頭のまま見つめていたら、隣にいたカフェ子が「どうしよう……」と呟いた。どうしたのかと隣を見ると、スマホを見つめて震えている。

「何があったの……?」

 今度は彼女が泣いている。

「ねえタピ子、どうしよう。私の好きな人、キラキラさんだった……」
「え……?」

 確かにカフェ子は最近、バイト先の常連さんが気になると言っていた。その人もミッドナイトスターのリスナーさんで、今回のチケットもその人が譲ってくれたとは聞いていた。それでも、その神様みたいな人が、まさかあのキラキラさんだったなんて。つまり、あのキラキラさんの恋の相手って──

「キラキラさん、好きな人いるじゃん……私、絶対失恋決定じゃん……」

 べそべそと泣き出すカフェ子を見て思わずギョッとする。え?この流れからすると、キラキラさんの想い人ってカフェ子だよね?そう伝えれば、カフェ子はううんと首を横に振る。

「うちのカフェ、可愛い子多いもん。絶対私じゃないよ」

 目の前のユージさんは、こちらをチラッと見ると「はいじゃあここらへんで曲入れようか!」と曲を流した。
 ガラス越しに目が合うと、彼は声には出さず「ごめん」と小さく口を動かし、手元の資料に目を戻した。多分、他の人には分からないような、ほんの一瞬の出来事だ。

 ごめんなんかで済むわけがない。そんな一言で、済むわけがない。

 そう思うのに、胸はきゅっと苦しくなって、また鼻の奥がツンとする。ああ、こんなところで泣きたくないのに。