キャーキャーと隣のカフェ子が私を叩く。

「ねえユージさんめっちゃかっこいい!めっちゃおしゃれ!やばい!」

 私は叩かれるがまま、信じられない思いでガラスの向こうに座るその人を見つめる。
 どういうこと?何が起きているの?どうして星倉さんがあそこに座っていて、ユージさんだと名乗ったの?
 スピーカーから流れてくる声は、確かに私の知る、ユージさんの声だった。そして──私のよく知る、星倉さんの声でもあったのだ。

 周りのリスナーたちが、興奮さめやらぬ様子でスマホを操作しているのに気づき、私も急いでスマホを取り出した。今ここでメッセージを送れば、ユージさんの正面にあるパソコンに届くはず。みんなそうやって、今のリアルな気持ちをユージさんに送っているのだ。

「いやあすごいですね、公開生放送って。僕初めてなんでちょっと緊張してます。うわすごいなあやっほー。いつもメッセージくれてるみんなもいたりすんのかな。どーもー!初顔出しです、ユージですよろしくどうぞ!」

 彼はこちらに向かってチラチラと手を振る。しかし全体に向かって視線を投げているからなのか、もちろん目は合わない。

「今日はなるべくたくさんのメッセージ読んで行きます。みんな今すごい送ってくれてるもんね。この目の前のパソコンにポンポン届いてますよありがとう。じゃ早速行きますか!

 ラジオネーム、ゆりかもめの卵さん。
『生放送に来られたので初メッセージです。ユージさん、初めてお顔拝見しました。なぜ今まで公開されなかったんですか?』

 おーどちらにいらっしゃるんだろ?ありがとうございます!あー、それはですね、パーソナリティって声の仕事じゃないですか。顔を出すことでイメージの邪魔をしたら嫌だなと思って。だから本当は今回の特番も、オファー頂いた時に少し考えさせてくれって言ったんです。だけどその気持ちより、いつも一緒に番組を盛り上げてくださるみなさんに会いたいなっていう気持ちが勝ってしまって。平気?イメージ壊してないかな?僕はこんな感じです。どうもDJユージですって2回も自己紹介いらないね」

 そう言いながら笑うユージさん。初めて明かされる彼の姿に、リスナーみんなの気分はとても高揚していた。

「じゃあ次のメッセージね。ラジオネーム、カフェ子さん。
『ユージさん、いま目の前にいます。感動です!それから、実はもうひとつ、とても感動したことがあります。それは、とある人が、私と私の友達に今日のチケットを譲ってくれたことです。その人もこの番組のファンなのに、楽しんできてねとチケットを譲ってくれました。今頃おうちで聞いているのだと思います。だから、この場を借りてお礼を言わせてください。本当に本当に、ありがとうございます』

 おお!僕からもお礼を言わせてください!ありがとうございます。カフェ子さんとお友達、今日は楽しんでいってね」

 隣にいる友達が「読まれた!」と跳ねあがって喜ぶ。その隣、棒立ちになった私はガラスの向こうで話す彼を見つめるしかできない。続々とメッセージが読まれていく。その都度、会場のあちこちでよっしゃーという声やどよめきが響いた。

「それじゃ次!お!ラジオネーム、タピ・オカ子さん!」

 ──きた。ついに来た。私の質問に、彼はなんと答えるのだろうか。

「『ユージさんに質問です。いつも仕事の前にはなにを飲みますか?』……」

 ガラスの向こうの彼はバッと顔を上げ、そしてこちらを見た。くるりと端から端を見回し、そして、私の上で彼の視線は止まった。彼は困ったように少し笑うと、マイクに向かってこう言った。

「……いつも、抹茶ミルクタピオカを飲みます」