この世の中には神様がいるらしい。いや、神様のような人がいる、が正しい。

 カフェ子とふたりチケット争奪戦に玉砕したというのに、今私たちがガラス張りの公開放送スペースにいられるのは、その神様のようなひとのおかげだ。
 整理番号はかなり早い番号で、わたしたちの2列前に、スタジオとこちらを仕切る大きなガラスある。これは近い。肉眼でしっかりと、スタジオの中が見える。マイクの前に置いてある台本の文字まで見える。

 今はミッドナイトスターの1つ前の番組のオンエア中。リスナーたちが楽しそうにトークを聞く中、申し訳ないことに私の視線はスタジオの奥にある扉ばかり捉えてしまう。

 あと5分。あと5分で次の番組にターンが変わる。つまりユージさんが登場する。心臓が口から飛び出すという言葉は、本当だったんだとそう思う。こんなに緊張したことは、今までの人生でなかっただろう。それだけじゃない。体中カタカタと震えて止まらない。すうすうと浅い呼吸を繰り返しても、ずっと酸素が足りないようだった。
 そうしているうちに大歓声の中、先ほどの番組が終了。放送ではコマーシャルが流れている。息をしなきゃ。すーはーと右手を胸にあてて、目を閉じて息を吸う。

 すると、ざわっと周りが揺れ動いた。ハッと顔を上げれば、キャップを目深に被った小柄な男の人がスタジオに入ってくるところだ。その人は、今放送を終えたばかりの流石さんと何やら話している。顔はあまり見えなかったけど、笑った口元にエクボがくっきりふたつ浮かんだ。

 その瞬間──、くらりと眩暈がした。

 ねえどうして
 どうしてあのひとが、あそこにいるの──?

 まさかそんなはずはない。ユージさんはいつ入ってくるのだろうか。それにしても、あの人がラジオ関係の仕事をしていたなんて全く知らなかった。どくんどくんと心臓は痛い。

 ところが、わたしのよく知るあの人は、そのまま椅子に座るとヘッドフォンを頭につけた。えー、というマイクを確認する音がスピーカーから響く。

「みなさんどーも。DJユージです」