え?

 返ってきたのは予想外の答えだった。俺は2枚チケットを持っていて、彼女を誘った。彼女の答えはイエスでもノーでもなく、1枚を譲ってほしいということ。どういうことだろうか、と思考が止まると、彼女は慌てて付け加えた。

「友達が本当に本当にあの番組が好きで……。どうしても、どうしてもユージさんに一目会わせてあげたいんです。だから……一枚だけ、お願いできませんか?お金も払います」

 そう言って、彼女は頭を深々と下げる。そんな彼女の揺れる毛先を見て、ふわっと肩の力が抜けた。どうやら、直接断られたわけではないらしい。彼女は、友達思いなんだ。それが分かって、さらに好きが膨らんだ。目の前で、申し訳なさそうに、だけど意を決して手を合わせる彼女を、とても愛おしく思った。
 俺は彼女に、2枚のチケットを差し出す。え?と目を丸くする彼女の瞳は、透き通ったビー玉みたいだ。

「それならさ、きみと友達と、ふたりで行っておいでよ」

 さらなる驚きで彼女は目を見開いた。そんな顔もするんだ。また新しい顔を知れた。

「だめです!だめですよ!!星倉さんだって、すごく行きたかったんですよね?」

 うん、行きたかった。すごく、行きたかったよ。──きみとね。

「俺はいいよ。友達だって、きみが一緒の方が絶対楽しいでしょ?」

 彼女はきゅっと唇を噛む。

「だから、楽しんできて」

 その代わり、さ──

 こんなことを言う俺はずるいかな。

「今度、一緒にどこか出かけない?」

 彼女はまた目を開いて、そして俯く。ドリンクはもう完成間近だ。
 黙ったまま、いつものように彼女はカップにペンを走らせる。そして、無言で俺に手渡す。俺はそっと、静かにそれを受け取った。

「お待たせしました……」

 手の中のカップに視線を落とせばそこには──“よろこんで”という言葉と、その後ろに星のマークとにこにこ笑顔。それから、彼女の連絡先が書かれていた。