「いらっしゃいませ!」

 今日も眩しい笑顔で迎えてくれる。今日もやっぱりものすごくかわいい。なんかもう、これだけでも十分かも……いやいやしっかりしろ!ここからだってば!俺はばれないように深呼吸をする。

「いつものでいいですか?」
「あ、うん」

 ニコッと笑うと、いつものようにカップを取り出し作業を始める彼女。ふわんと甘い香りが漂ってくる。ちらりと後ろを向くと、幸いだれも後ろに並んでいなかった。チャンスだ。

「あの……、さ」
「はい」

 彼女の目線は手元に落ちたまま。

「今度の生放送のチケットなんだけど」
「私だめでした……友達もだめで……倍率高すぎましたよね」

 ほっと小さく息を吐く。彼女は外れていたみたいだ。いや、それにほっとするっていうのもなんていうか意地が悪いよな。だけど、ある意味ではこれはチャンスなんだ。もう一度息を吸い込む。そして、決意を込めて俺は言葉を発した。

「俺当たったんだ。一緒に行かない?」

 ばくばくと自分の心臓の音ばかりが響く。耳の中に心臓ってあるんだっけ?というくらい、その音しか聞こえない。顔を上げた彼女の表情は、驚きに満ちていて──それからみるみるうちに赤くなっていく。

「星倉さんっ!当たったんですか!?」

 ものすごく興奮してるみたいだ。頬が赤いのも、どうやら興奮しているかららしい。でもそこじゃない。そこじゃないんだよ。大事なところは、一緒に、という所なんだよ!
 俺が必死に目で訴えると、彼女はぴたっと動きを止めた。そして考え込むように、また瞳を左右に泳がせる。
 ああ、だめ……なのだろうか。やっぱ彼氏がいるとか?こんなただの客と仕事以外で会うのは嫌だとか?だけどラジオは見に行きたいしみたいな?どっちがいいか、損得勘定してるのか?いやいや彼女はそんな子じゃない。そんな子な訳がない。またもや頭の中の俺が一人で自問自答する。

「あの……本当に本当に申し訳ないのですが……」

 ああ、やっぱりだめなのか。

「その一枚、譲っていただけませんか?」