あれは、きみのことだよ──

 喉の奥から言葉が零れ出ようとした瞬間

「いらっしゃいませ」

 新しい客がやって来た。ああ、タイミング……。ふとそこで我に返る。俺、今なんて言おうとしていた?心の声がそのまま声帯を震わせる直前だったことに気が付いて頭が真っ白になる。こんなところで突然告白だなんて、崖から飛び降りるのと同じだ。
 ドリンクをカウンターから手に取ると、彼女はちらりとこちらを見る。そしてにこっと笑って小さく会釈をしてくれた。

 ──ああ、本当に、かわいい。

 これから番組へのメッセージはどうしようか。もう送るのをやめた方がいいだろうか。そう思えば、彼女の先ほどの輝く瞳が思い浮かぶ。

『本当にうまくいってほしいって思っています、わたし』

 俺には義務がある。この恋の行方を、ユージさんに、応援してくれているリスナーのみんなに報告するという、義務が。──なんてかっこつけてみたけれど、実際には俺が報告をしたいというだけだ。

 だってさ、俺は、見守ってもらいたいんだ。ユージさんに、リスナーのみんなにさ。この恋の行方を。うまくいっても、いかなくても。

 手の中のカップに描かれたかわいらしい文字と絵をもう一度見つめる。いつかここに、もう少し踏み込んだ言葉を書いてもらえる日は来るのだろうか。

 いつかきみに、伝えたい。
 きみがすきだと、伝えたい。
 電波を借りて、ユージさんの声を借りてじゃなくってさ。

 きちんとこの俺の声で、言葉で、伝えたいんだ。

 きみがすき。