「いらっしゃいませ」

 いつも行くお店で働いている、かわいらしい女の子がいる。多分、学生さんだろう。笑顔が眩しくて、いつもにこにこしている。もちろん接客業なのだから、それが客としての自分に対するものだというのはきちんと分かっているつもりだ。
 それでも、行くたびにその笑顔に胸の奥が懐かしい感覚で締め付けられる。いい年して、こんな甘酸っぱい感情を抱く日が来るとは思わなかった。だけどそれも仕方ないじゃないか。だって本当に、そう感じてしまうのだから。

 明瞭快活。お調子者で人見知りなんかしない俺。人と話をすることだって、どちらかと言えば得意な方だ。大勢の人の前で話すことも苦ではないし、考えるより先に口が動くことの方が多い。しかし、そんな俺も彼女を前にすると、いつもの自分はどこへやら。俺の知らないシャイな自分がひょっこり頭を出したかと思うと、一気に普段の俺を覆い尽くす。そうなってしまえば、俺はまるでまったくの別人だ。しどろもどろ、うまく言葉が出なくなって、ぎこちなく笑うことしか出来ないなんて。自分を幽体離脱したように、天井から見下ろす気分。それがとてももどかしい。

 こんな最近の自分の状況を周りに話したら、お前らしくないと笑い飛ばされた。なんだよ、結構本気で悩んでいるというのに。

 誰かに聞いてほしい。
 誰かに話したい。
 出来ることなら、アドバイスをしてほしい。

 そう思うことは、誰にだってあるだろう。誰でもいいわけじゃない。だけど、“誰か”じゃなきゃだめというわけでもない。相談なんて、大それたことでもないんだ。ネタのひとつと思ってもらうくらいでいい。なんとなく、今日あったよかったこととか、なんかうまくいかなかったこととか、気楽にだれかに吐き出したいという、ただそれだけのこと。だけどそんな場所があることなんて、俺はずっと知らなかった。