「いらっしゃいませ!」
「……抹茶ミルクタピオカひとつ」
「はい!」

 一週間はあっという間にめぐり巡る。この6日間、今日という日が来るのを楽しみにしていたのはここだけの話だ。

「先週は、ごちそうさまでした」

 お玉でタピオカをカップに入れながらそう言うと、カウンターの向こうにいるメモ男はばっと顔をあげ、赤くなってまた俯いた。その反応が予想していたものと異なり、思わずじっと見てしまう。

「いや、あれはまあ……言い方が悪かったなと思って……」

 以前の無表情で失礼な無愛想男からは想像も出来ないおどおどとした様子に、くすっと笑いがこぼれてしまう。そんな私を驚いたように見た彼は、ちょっと恥ずかしそうに目を細めて笑った。
 あ……笑えるんだ……。

「あの……名前、教えてもらえますか?」

 その瞬間、気付いたらそんなことを言っていた。

「……えっ……」

 フリーズしているメモ男さんに、私はハッと我に返る。

「あっ!いやあの!常連さんだからこれからもお会いするしなって!他意はなくて!名前を知っていたらコミュニケーションも取りやすいかなって!メモ男さんなんて呼ぶのもあれかなって!でもいいんです別にあの忘れてください!」

 恥ずかしい!顔から湯気が出てしまいそう。意味もなくカウンターの上をせわしなく拭いていれば、キラキラ……という小さなつぶやきが降ってきた。

「星倉……名前は、星倉です」

 目の前で恥ずかしそうにはにかむメモ男──星倉さん──は、そう言うとカップを手にそれじゃあとくるりと背を向けた。

「あ……ありがとうございました!」

 彼の名前を聞いたくせに、自分は名乗るのを忘れていたと気付いたのは、彼の背中が角を曲がった後だった。