そして再び訪れた月曜日。あの失礼男はやって来た。やはり月曜の常連客だったようだ。

「いらっしゃいませ!」

 私はシフトをずらすつもりはないし、相手も店を変えるつもりはない。少し腹は立つものの、接するのはほんの数分。それに、こんな男のせいで、毎週楽しみにしていた月曜日を無駄にするのも癪だ。ここは大人として、しっかりと線引きをして接しようじゃないか。

「……抹茶ミルクタピオカふたつ」
「はい、かしこまり……ふたつですか?」

 カップをひとつ手に取った私は、思わず聞き返した。いつもはひとつしか注文しないはず。しかし、私の言葉にその人はキャップのツバを深くおろして頷いた。どうやら聞き間違いでも、言い間違いでもないらしい。

 ──ふたつ、か。

 かしこまりましたとだけ告げ、私は無言でふたつドリンクを作る。こんな失礼男にもドリンクをあげる相手がいるとは。まさか彼女ではあるまい。友達?いや、妹とか?まあ別に何でもいいんだけど。私には関係のないことだ。

「お待たせしました」

 両手で完成したドリンクをふたつ渡せば、黄緑の中で黒く輝く粒たちがぷるんと揺れた。失礼男はお金をカウンターに置いた後両手で一度それらを受け取ると、ひとつをこちらに突き返した。

 ──今度は何の文句?

 無駄話はしていない。注文だって間違えていないはずだ。大体確認もしたじゃないか。それとも悪質なクレーマーだったりするのだろうか。さすがの私も、眉をひそめて顔をあげれば、その人はくるりと背を向け去って行った。

「あの!お客様!忘れてますよ!」

 そんな言葉は虚しく夏空へと消えてゆく。実際には、突き返されたのだから忘れたわけじゃないのだろう。料金はきちんと2つ分が置いてある。

 ──何なの?

 あっけにとられて目の前のドリンクを見ると、カップの奥側に何かが張り付いているのが見えた。なんだろう、レシートだろうか。不思議に思ってカップを手に取ると、そこについていたのは小さなブルーの付箋だ。

『この前は時間がなくてイライラしていて、失礼な態度をとってすみませんでした』

 ちょっと角ばった、男の人の文字。カップの結露がしみこんで、ボールペンで書かれたそれは少し滲んでいた。

 なに、これ……このタピオカは、私へのお詫び、ってこと……?

 今まで男の人から何かをもらうということを経験しなかったわけではない。だけどそれはどれも、友人だったり彼氏とは言わないまでも両想いの相手であったりしたわけで、名前も知らない誰かから何かをもらうなんて人生で初めてのことだ。どうして私に?お詫びだっていうことなのは分かるけど。それでも、ここまでするのだろうか。

 ──その後この私が、あろうことかラジオが始まるギリギリまで失礼男もといメモ男のことばかり考えてしまったことをここに吐露しておく。0時30分近くなってからハッと気づき、急いでチューンを合わせたのはユージファンとしてはあるまじき事態である。それでも、一応オープニングには間に合ったから、ぎりぎりセーフということにしておこう。

「みなさんこんばんは!ミッドナイトスターのお時間です」

 ああやっぱり──ユージさんの声を聞くと、ほっと心が安らぐのだ。