……なにあれ……。
 その背中が消えたところで、やっと感情が追い付いた。時差でフツフツと怒りが込みあがってくる。なんて失礼な人なのだろう!あんな言い方をしなくてもいいだろう。あんなに失礼な人が世の中にいるなんて!

 ──ということがあり、うきうきとした楽しいものとなるはずだった今夜のメッセージは、結果ユージさんに助けを求める病みメッセージへと姿を変えてしまったというわけだ。
 でも、そのおかげでユージさんからやさしい言葉と素敵な曲を選んでもらえたわけだからヨシとする。何事も、無駄にはしちゃいけない。全てのことには意味があるのだ。
 番組終了後、すぐにユージさんが教えてくれた曲をダウンロードして、それから私は赤飯を炊いた。

 そして次の月曜日。バイト先に、またあの失礼男がやって来た。
 彼は私を見ると、明らかに嫌そうな顔をする。気付いていますか?思い切り顔に出ているということを。私だって、出来ることならばもう二度と顔を合わせたくなかった。それでも仕事は仕事だ。小さく深呼吸をすると、完璧な営業スマイルを作って見せた。

「いらっしゃいませ!」

 すると彼はこの間と同じような無愛想な声で、抹茶ミルクタピオカひとつとぼそりと注文する。先週は声いいかもしれないと思ったけれど、ただ無愛想なだけだ。早くミッドナイトスターの時間にならないかな。ユージさんの声で癒されたい。そんなことを考えながら、私は一度も口を開かずにドリンクを作り終えた。もちろん相手も、それ以上は何も言わずに支払いだけ済ませて去ってゆく。

 本当に無愛想なひとだ。そんなに私が嫌ならば来なければいいのに──。

 ふと、壁に貼ってあるシフト表が目に入る。私が月曜日にシフトに入るようになったのは先週からだ。もしかしたら、あの人はもともと月曜日の常連客だったのかもしれない。そんなことを考えながらカレンダーを眺めていれば、いつものお姉さんがやってきた。このお姉さんは、毎週月曜日と金曜日の夜8時ぴったり、仕事後に来てくれるのだ。「この間は大丈夫だった?」と周りをきょろきょろ見回しながらお姉さんは声を潜める。

「この間はごめんね。タピちゃんって話がおもしろいからさ、つい楽しくなって長々と話しちゃうんだよね」
「お姉さんのせいじゃないですよ。それよりも、さっきのこと本当ですか?嬉しいです!」


『ユージさんこんばんは!今日、話がおもしろいと褒められちゃいました。もちろんお世辞だとは思いますが、ユージさんに憧れている私としてはすごく嬉しかったです!』

 ──読まれなかった。だけどいいのだ。この間、ユージさんが番組内で言っていた。紹介することが出来なかったメッセージも、僕が目を通していますって。このメッセージが少しでもユージさんの目に触れるのならば、それだけでも十分に幸せだ。

 オンエア中の番組内では、男性リスナーさんの『よく行くカフェで働く女の子を好きになってしまった』という恋愛相談にユージさんが親身に答えていた。ユージさんはいつでも、どんなことにも、親身になって丁寧に答えてくれる。声だけだとしても、彼の人柄がにじみに出ている。

 本当に素敵な人。
 本当に理想の人。

 ユージさんはきっと──いや、絶対──穏やかで優しく、ひとつひとつの所作が丁寧で美しい、素敵な人に違いない。やっぱり私にとってユージさんは、世界で一番素敵な人だ。