「少し遠回りしていくか」
「夜のドライブって感じ!」
ヒロさんがそう言って、ウインカーを左にあげる。依子さんはやったーと両手を挙げていた。きっとこれも、ふたりの優しさだ。わたしが家に帰ってから、ひとりで泣いたりしないように。ユージさんを恋しがって、枕を濡らさないように。なるべく一緒にいようとしてくれているのだろう。その優しさに、今日は甘えさせてもらう。
私たちはおしゃべりをしながら、ピータンさんのトークに合いの手やつっこみを入れながら、時には歌を歌いながら、綺麗な夜景を横目に夜の街を走っていく。楽しいから笑っていたし、楽しいから歌えていたし、本当に楽しかった。だけど、知らずのうちに涙が溢れていたことに、きっとヒロさんも依子さんも気付いていたのだと思う。零れ落ちた滴たちは、開け放たれた窓から風にさらわれ煌めいていく。
「ユージの話をしていたら、あっという間に枠が終わっちゃうな。名残惜しいけど最後の一曲を流そうと思います。これさ、アメリカからユージが持ってきてくれたんだけど、あの有名なJohn Patternsの新曲なんだって。世界先行でBaysideKOKOからお届けします。John Patternsで、“Complete“。え、待って!これ作詞ユージがしたってほん」
ぷつりとマイクの音は切れた。ディレクターとのタイミングが合わなかったのだろう。これじゃピータンさんと組むディレクターさんも大変だろうなと苦笑いが出る。と、昨日の放送中に流れた曲のイントロが聞こえてきた。
「私、この曲すごく好きです」
昨日はユージさんの登場と生放送で緊張していたためゆっくりと聞くことが出来なかった。それでも、メロディがとても好きだとそう思った。John Patternsはユージさんが昔から大好きだと言っていたアーティスト。彼の影響で、私も学生時代にCDを買ったっけ。優しいメロディに力強い歌声。どこか切なくて、なぜだか胸の奥がぎゅうっとなる。
「タピ子、英語分かるんだっけ」
じっと聞き入っていると、間奏でヒロさんが聞いてくる。
「中学英語くらいで止まってます。雰囲気しか分からないですけど」
ふうん、とヒロさんは小さく唸る。
「でもこの歌詞、すごくすごく好きです。You complete meって、サビのところ」
うん、と今度はヒロさんは頷いた。
「この曲の歌詞、ユージさんが書いたんだよ」
え、とわたしは顔をあげる。
「complete meっていうのはな──」
夜風がメロディを、空の上へとさらっていった。
完
「夜のドライブって感じ!」
ヒロさんがそう言って、ウインカーを左にあげる。依子さんはやったーと両手を挙げていた。きっとこれも、ふたりの優しさだ。わたしが家に帰ってから、ひとりで泣いたりしないように。ユージさんを恋しがって、枕を濡らさないように。なるべく一緒にいようとしてくれているのだろう。その優しさに、今日は甘えさせてもらう。
私たちはおしゃべりをしながら、ピータンさんのトークに合いの手やつっこみを入れながら、時には歌を歌いながら、綺麗な夜景を横目に夜の街を走っていく。楽しいから笑っていたし、楽しいから歌えていたし、本当に楽しかった。だけど、知らずのうちに涙が溢れていたことに、きっとヒロさんも依子さんも気付いていたのだと思う。零れ落ちた滴たちは、開け放たれた窓から風にさらわれ煌めいていく。
「ユージの話をしていたら、あっという間に枠が終わっちゃうな。名残惜しいけど最後の一曲を流そうと思います。これさ、アメリカからユージが持ってきてくれたんだけど、あの有名なJohn Patternsの新曲なんだって。世界先行でBaysideKOKOからお届けします。John Patternsで、“Complete“。え、待って!これ作詞ユージがしたってほん」
ぷつりとマイクの音は切れた。ディレクターとのタイミングが合わなかったのだろう。これじゃピータンさんと組むディレクターさんも大変だろうなと苦笑いが出る。と、昨日の放送中に流れた曲のイントロが聞こえてきた。
「私、この曲すごく好きです」
昨日はユージさんの登場と生放送で緊張していたためゆっくりと聞くことが出来なかった。それでも、メロディがとても好きだとそう思った。John Patternsはユージさんが昔から大好きだと言っていたアーティスト。彼の影響で、私も学生時代にCDを買ったっけ。優しいメロディに力強い歌声。どこか切なくて、なぜだか胸の奥がぎゅうっとなる。
「タピ子、英語分かるんだっけ」
じっと聞き入っていると、間奏でヒロさんが聞いてくる。
「中学英語くらいで止まってます。雰囲気しか分からないですけど」
ふうん、とヒロさんは小さく唸る。
「でもこの歌詞、すごくすごく好きです。You complete meって、サビのところ」
うん、と今度はヒロさんは頷いた。
「この曲の歌詞、ユージさんが書いたんだよ」
え、とわたしは顔をあげる。
「complete meっていうのはな──」
夜風がメロディを、空の上へとさらっていった。
完