「先週はですね、次回は盛れる夜景の撮り方特集をしますということで予告しまして。んでまあ、リスナーのみなさんからもお便りをいただいたんですけどごめんね!それはまた来週!今日はDJユージ特集をやりたいと思います!」
ヒロさんの運転する車は夜の首都高速をすり抜けていく。オレンジ色に輝く東京タワーが綺麗で思わず見入っていたときだった。ラジオのピータンさんの声がそんなことを言った。ヒロさんは軽快に笑って、依子さんはうわぁと目と口を開いた。
DJピータンさんの番組をちゃんと聞いたのは初めてだった。というのも、今までこの時間は、インタビューの準備をする時間にあてていたからだ。ピータンさんは実に自由な感性の持ち主だということはよく聞いていた。打ち合わせをしていても、生放送でピータンさんの気が変わればそのまま番組は別の路線で進んでいく。最初のうちこそ上も頭を抱えていたらしいが、その突飛な生放送がリスナーの評判を呼び、今ではそれも含めてのハンサムアワーというくくりになっているということだ。それにしても、唐突にDJユージ特集とは。きっとディレクターたちも慌てていることだろう。
「みんなも知ってるでしょ?伝説パーソナリティDJユージ。俺の大親友なんですけどね、なんとアメリカから一時帰国してたわけ。たったの一晩しか日本に滞在しなかったんだけどその一晩は、俺が一緒に飲み明かしてました!親友だから当然っちゃ当然だけどね」
一緒に飲み明かしていたのは間違いではないけどな、とヒロさんが苦笑する。それならヒロだってユージくんの大親友だねと依子さんも笑った。なんだかさっきまでのしんみりムードが嘘みたいに、ピータンさんのトークは車内の空気を明るく、そして軽くしてくれる。
ラジオとはすごいものだ。パーソナリティによって全然違う世界が現れる。そんなことに改めて感動してしまう。
「ヒロね、ピーくんのラジオも毎週聞いてるんだよ。もちろんタピちゃんのも!」
依子さんがこそっとわたしに耳打ちをした。いつも努力しているヒロさん。収録がなくても遅くまでスタジオで練習をしているヒロさん。そんな彼は、わたしにとってやはり頼もしく、そして尊敬する先輩だ。
「じゃあ今日は、とにかくユージが好きだった曲をばんばん流して、その合間に俺とユージの思い出話を披露したいと思います。ユージも今頃この番組を聞いてくれていることでしょう!今は飛行機の中でもWi-Fiが飛んでるからね。スマホを使えば世界中どこにいても、空の上にいたって、ラジオを聞くことが出来るらしいよ。本当文明ってすごいよね。きっと、いや必ず!ユージも飛行機の上で聴いてくれていることでしょう。おーいユージ!親友はここにいるぜ!それじゃ早速一曲目行ってみようか」
ミッドナイトスターのオープニングとして使われている曲が流れ始める。この曲を聞くと、自然と背筋が伸びてしまう。
「はいっ、DJタピーさんタイトルコールどうぞ!」
依子さんが片手をマイクに見立ててわたしの前へと差し出した。
「さあ今夜も始まりました、DJタピーのミッドナイトスター!」
あははと依子さんが笑って、私も笑う。オープニングの曲をどうするかという打ち合わせの時に、以前のものと同じにしてほしいと頼んだのは私だった。
あの頃──この曲が始まれば、気持ちはわくわくして嫌なことも忘れられた。ユージさんの世界のドアを叩く、ノックのような存在だったのだ。今度は新しいリスナーさんにとって私との世界のドアを叩くノックになってくれたらいい。いいことも、嫌なことも、楽しいことも苦しいことも、一緒に分かち合える。そんな世界を作りたい。ユージさんが繋いでくれたように、私も大きな輪を作りたい。