「みなさんこんばんは!ミッドナイトスター特別編をDJタピーがお送りします。まあ、みなさんって言っても、リスナーさんはひとりしかいないのですが。そして私もどなたかと同様に、職権乱用でこのスタジオを使用させてもらっているのですが、第1回放送も無事に終わったことだし、大目に見てもらいましょう!

 えーっと、ユージさん。今日は番組にゲスト出演してくれて本当にありがとうございました。ゲストが来るということも、まさかそれがユージさんだということも何も知らず、本当に驚きました。多分今まで生きてきた中で、一番びっくりした瞬間だったと思います。あ……生放送のときが一番かな。どちらにしても、本当にびっくりしました。そして、ありがとうございます。
 ユージさんの番組に出会ってから今日までずっと、私はユージさんの言葉にたくさん救われてきました。就活の時期も、夢を見つけたときも、つまずいてしまった時も。どんな時もユージさんの存在が、言葉が、いつだって私のことを水底から救い出してくれました。そして、ユージさんの繋いでくれたリスナーさんたちとの縁が奮い立たせてくれました。本当にありがとうございます。DJユージさんに出会っていなかったら、今の私はここにいません。

 ユージさんがアメリカに行ってしまってから色々なことがありました。声だけだとしても多くの人の前に出るというのは思っていたよりもずっと大変で、恐ろしいことでした。ユージさんが言ってくれたように、周りの環境は大きく変化していました。私ね、声が出なくなっちゃった時があったんです。もうだめなのかな、夢を諦めようかな。そんな風に思っていたんです。でもね、そんなときにも、たくさんのリスナーさんたちの言葉で私はまた、立ち上がることが出来ました。その中のひとつのメッセージを今でも、一言一句間違えずに言うことが出来るんです。

『ラジオネーム、抹茶メモさん。人生は、プラスマイナスゼロで出来ていると思います。夜があるから朝がくる。雨が降るから虹が出る。苦しみがあるから喜びもある。だからどうか、怖がらないで。どんな道を選んだとしても、きみならきっと大丈夫。背筋を伸ばして、前を向いて。堂々と、自分らしくいてください』

 この言葉に救われました。それにしても、もう少し頻繁にメッセージくれてもよかったんじゃないかなあって思うんですけど、それは私の欲張りなのかな。ねえどうですか、抹茶メモさん。……へへ、いつか言ってやろう、って思っていたんです。だけど、本当に不思議なくらい、いつだってユージさんは、私が欲しい言葉を欲しい時にくれました。一緒にいないのに、会っていないのに、遠いところにいるのに。どうしてですか?もしかしてユージさんは魔法が使えるのかな?

 あーあ、不思議。マイクの前ならば、こんなにすらすらと話せるのに。素直に思っていることを言えるのに、なぜだかユージさんの前だといつもうまく話せません。本当は、たくさん話したいことも、聞いてほしいこともあるのに。

 ユージさん、私はユージさんに謝らなければならないことがあります。ユージさんとタピオカスタンドの常連さんが同一人物だと分かったあと、変な態度をとってしまってごめんなさい。
 私にとって、抹茶ミルクタピオカを頼むあの人も、ラジオの向こうのDJユージさんも本当に特別な人でした。だから、そのふたりが同一人物だと分かった時、どうしたらいいのか分からなかったんです。今目の前にいるこの人は、身近に思っていたあの人なのか、憧れのあの人なのかふたつの感情がごちゃごちゃになって、あんな態度をとってしまいました。ユージさんは、わたしを騙そうと思っていたわけじゃないのに。本当にごめんなさい。
 だけどね、ユージさん。時間が経過しても、ずっとずっと、ユージさんはわたしの心の中にいました。会えなくなっても、アメリカに行ってしまっても、例えもう、一生会えないんだろうと思っていても、それでもずっと、いつも心にユージさんはいたんです。消えてくれなかった。それで分かったんです。憧れだろうがなんだろうが、ユージさんはわたしの中で、きっとずっと、死ぬまでずっと、大事な大事なひとなんだって。

 長々とごめんなさい。早く来いとヒロさんからメッセージが何件も来ているのでそろそろこの番組を終わりにして、ユージさんのいる場所へ向かおうと思います。本当は行きたくないです。だって行ってお酒を飲んだら朝が来て、そしたらユージさんはまた、アメリカへ行ってしまうんでしょう?
 どうしてわたしは魔法が使えないのかな。魔法が使えたら、時間を止めてしまうのに。
 ……あ、このお守りは、私がユージさんのために買ったものです。いつかまた、ユージさんに会えたら渡そうといつも持ち歩いていたんです。どうかこのお守りも、ユージさんを守ってくれますように。

 ユージさん、本当にありがとう。私、もっと頑張ります。ユージさんに認めてもらえるようなパーソナリティになれるように、これからも努力します。だから──

 ──だから、私のことを、待っていてくれませんか?」



 消灯の時間が来たらしく、機内のライトが落とされる。薄暗くなった機内で、俺は片手をおでこにあてて俯いた。
 よかった、暗くなって。だってまさか、こんなふうに泣いている姿なんて、誰かに見られたくないじゃないか。タピちゃんの笑顔が瞼にうつる。つけたままのイヤホンからは、インストールしてあったあの曲が流れ始めた。

“baby, baby, you complete me……”

 ああもうすでに、きみが恋しい。