──あれは、来栖さんから出演オファーのメールが来た時だった。ちょうどそのメールを、番組後Johnといるときに受け取った。
 遂にタピちゃんがミッドナイトスターのパーソナリティになる日が来たのか。そう思えば自然と顔が綻んでいたらしい。目ざといJohnがにやにやしながらガールフレンドからか?と聞いてきて俺は言ったのだ。「一時帰国したい」──と。

 アメリカに来て一度も仕事に穴をあけたことはない。一時帰国する予定だって本当はなかった。それでも今回だけは絶対に行かなければならない──行きたいとそう思った。詳しいことは何も話していない。しかしJohnはじっと俺を見つめると、ノープロブレムと両手を広げのだった。

「一晩滞在して帰国するから。帰国日の収録には参加するよ」
「なんで?せっかく帰国するならもっとゆっくりしてくればいいのに!」
「彼女の番組に出演することが出来たらそれでいい」
「そのためだけに日本へ行くって言うのかい?」

 そうだと頷けば、彼はクレイジーユージと大きく笑った。そして、虹色に反射する円盤を俺に手渡したのだった。それは、彼が次にリリースする新曲の音源だった。

「この歌詞は、彼女に向けてのものなのだろう?」

 円盤を差し出しながら彼はそう言った。

「世界で一番最初にこの曲をオンエアする権利をユージのガールフレンドにあげるよ。俺から彼女へのささやかなプレゼントさ」

 そう言ってウインクしたJohnは、Already I miss youとわざと気色の悪いメッセージを送ってきている。まったく、とアメリカにいる友に笑いがこぼれた。昨日の夜にいつもの店で撮った焼き鳥の写真でも最初に送っておくか。そう思って、上着のジャケットからスマホを取り出そうとしたときだった。ころんと赤い何かが、足元に転がった。

 それは、見覚えのある赤いお守り。俺が、タピちゃんにあげたそれと、まるで同じものだった。どうしてこれが?彼女に渡したはずのこれが、どうして。
 震える指先で拾い上げれば、不自然な固いふくらみが指先に触れる。これは、俺が入れたあのUSBなのだろうか。それとも──。

 そっと紐を解いてみる。左のてのひらの上にお守りを開けてみれば、ころんと、ピンク色のUSBが転がり落ちる。ひとつ大きく深呼吸をして、ノートパソコンにそれを差し込んだ。