ちゃんとうまく笑えたと思う。ちゃんと声も、出せたと思う。震えたりせずに、行ってらっしゃいと言えたと思う。涙は溢れてしまったけれど。だけど、ちゃんと、ちゃんとできたと思うの___

「がんばったな」

 ぽん、と左肩にぬくもりを感じて振り向けば、そこにはヒロさんと彼女の依子さんが立っていた。ふたりの優しい視線に、顔がくしゃりと歪むのを感じた。

「タピちゃん、がんばったね。ユージくんも、よくがんばったと思う」

 そんな依子さんの優しい声とぬくもりは、体中の張りつめていた糸をたゆませて私は声をあげて泣いた。いろんな人が見ていたかもしれない。だけどそんなことどうでもよくなるくらいに、感情は溢れて止まらなかった。ヒロさんも依子さんも、そんなわたしを見守ってくれていた。



「すみません、取り乱しちゃって」

 まだ赤い鼻をした自分の顔がバックミラーに映る。ミラー越しに目が合うとヒロさんはすっと視線を逸らし、たまにはいいんじゃないのとそう言った。ヒロさんの車の後部座席には私とヒロさんの彼女である依子さん。何かと気にかけてくれるお姉さんみたいな存在だ。

「あの……なんで空港に?」

 さっきまでは自分の感情のことでいっぱいいっぱいで、なぜふたりが空港にいるのかという疑問がとっさには出てこなかった。もしかして、ユージさんの見送りに?

「ユージくんがね、夕方頃ヒロに連絡してきたの。タピちゃんを空港まで迎えに来てくれないかって」

 依子さんがそう言って、びっくりしたでしょといたずらそうに微笑む。どこまでも、ユージさんはユージさんだ。彼のあたたかさと優しさはぽっかりと穴が空いたはずの心に、ぽわりと小さな明りを灯す。
 家族、親友、先輩、同僚に上司。リスナーのみんなに、ユージさん。私はいつだってひとりではなくて、誰かがいつもそばにいてくれて、そして支えてもらっている。だから私もそんな人になりたいと強く思う。大事な人を、電波の先にいる誰かのことを、支えられるような、そんな人になりたい。

 あ、と依子さんが窓の外を指差した。その先には夜空を上り行く飛行機のアウターランプ。ユージさんは、あの飛行機に乗っているのかな。
 ユージさんは、気づいただろうか。私が最後に、小さな望みを託したことを。抱きしめられたその時に、彼の上着のポケットに、想いを落とし込んだことを。
 ヒロさんが、ウインと窓を開けてくれる。冷たい風が私の前髪を揺らしていって、その上を飛行機が通過していく。

「本当に行っちゃったんだなあ……」

 そんな言葉が口をつけば、ぎゅっと左手がやわらかな右手に包まれる。依子さんの手は、いつもあたたかい。

「ニューヨークなんて、近いよ」

 飛行機でたったの12時間ちょっとだよ、と依子さん。半日あれば、ニューヨークに行けちゃうらしい。そうやって思えば確かにニューヨークは近いのかもしれない。

「来年、行けばいい」

 ヒロさんがそう言って、手元のオーディオをいじった。


「お待たせしました!視覚で感じるラジオ番組ハンサムアワー!BaysideKOKOからDJピータンがお送りします」

 ピータンさんの流暢な英語が響き渡った。