「空港まで、見送りに来て欲しいなんて言うわがままを聞いてもらってもいいかな」
あの後、駅の大きなロッカーからスーツケースを取り出した時、彼は私にそう言った。本当は最初から、空港まで見送りにいくつもりでいた。迷惑かもしれないと思いながら、一緒にいられるギリギリまでそばにいたいとそう思っていたから。
いつも優しいユージさん。いつもわたしの立場や気持ちを優先してくれて、決して自分の要望を伝えることのないユージさん。そんな彼の言ったわがままは、わたしにとってはとても愛おしく、そして切ないものだった。
この空港へ来たのはあの日──アメリカに発つというユージさんを追って訪れた時以来だ。発着共にピークの時間帯なのかもしれない。旅行帰りの楽しそうなカップル、これからハワイ旅行に行くのであろう、花飾りを髪の毛に挿した女の子を連れた家族、留学にでも行くのだろうか、高校生くらいの女の子を見送りに来たらしい仲間たち。そんなふうに、この場所には多くのドラマがある。みんなそれぞれの、出会いと別れと再会と約束がある。私たちは、どんな風にうつるのだろうか。
チェックインしてくるねと、カウンターへと進むユージさんの後ろ姿をぼうっと見送る。あと少しで、彼は私が足を踏み入れることのできないあのゲートの奥へ行ってしまうのだ。そんなことは分かっていたことなのに、その事実を認めたくなかった。
尊敬
憧れ
すきという恋心
その全てがユージさんへ向かって溢れてくる。伝えなくちゃいけない。ちゃんと言わなくちゃいけない。だって、次はいつ会えるか分からない。
飛行機のチケットを片手に戻ってきたユージさんはこちらに柔らかく笑いかけ、そしてゆっくりとした足取りで歩いてくる。
ああ、もうすぐお別れの時間だ。
ふわりと彼の香りが鼻腔をくすぐる。この香りさえ、もう感じることが出来なくなってしまうのだろうか。