「やっぱ、最後はここでしょ」

 最後という言葉にずきんと胸が痛むのをやり過ごして、彼の言葉に頷いた。きっとここに、来ると思った。
 冬は早い時間でもあっという間に夜の帳が下りてしまう。まだ夜ではないのに、今日はおしまいだぞと言われているような気持ちになる。そんな暗がりの中、そこは場違いな黄色とピンクの看板が煌々と明かりを放っている。私とユージさんが、初めて顔を合わせた場所。いやあのときは、ユージさんは“星倉さん”だったのだけど。

「タピさん!?」

 カウンターへと行けば後輩の木村ちゃんが嬉しそう私の名を呼び、それからユージさんを見て目を輝かせた。

「久しぶりに来てくれたと思ったら、彼氏と一緒ですか!かっこいいですね」

 ああ、と私は頭を抱える。彼氏とかじゃないし、そんなこと言われたらユージさんも困るだろう。

「木村ちゃん、おしゃべりはいいから抹茶ミルクタピオカふたつ」

 そう伝えれば、ユージさんが横で笑う。

「おしゃべりばかりしていたタピちゃんが、そんなことを言う日が来るなんてね」
「い、いつの話してるんですか!」

 ユージさんが初めてここに来た日のことを思い出す。喋るのが仕事?なんて、まさに喋りを生業としているユージさんに言われていたなんて。

「今思うと、とんでもない皮肉でしたね」
「あはは、自分でも性格悪いなって思う。あの時はイライラしてたし、まあ若かったしね」
「何でも若さのせいにしないでくださーい」
「タピちゃんもまだ若かったよね。受かった会社で適当に働いて寿退社ですかねーとか言っちゃって」
「あ!ちょっとやめてください!やだやだ恥ずかしい!」

 ユージさんが楽しそうに笑うから、わたしもつられて笑ってしまう。その様子を、木村ちゃんはなんだか嬉しそうに見ていた。

「前にタピさんに教えてもらった特別配合で作っておきましたから」

 木村ちゃんは、出来る子だ。ありがとうまたね、と声をかけると、背中から声が飛んでくる。

「ありがとうございました!彼氏さんとお幸せに!」

 逃げるように小走りすれば「ありがとね!」とユージさんが大きく返事するのが聴こえて、私の耳は熱くなった。



「タピちゃん、時間まだ平気?」

 ずるるっとタピオカを飲んでいれば、ユージさんは歩きながらそう言う。その言葉は、もうすぐ終わりが近づいているということを表していて、どうにか時間を止めたくてわたしは口を開いた。

「私は時間なんて!もう本当、何時でも!なんならオールでも!」

 思わず勢い込んでそう言えば、ユージさんは、ははっと声をあげて笑った。その笑顔に胸の奥がぎゅっとなる。

 ──すき。

 突然、そんな二文字がぶわりと頭の中を支配する。なぜそれが今なのか、なぜ突然そう思ったのかは分からない。だけどその二文字は、私の中ですとんと胸の奥へと落ち着く。
 
ああそうだ。わたしはこのひとのことが、すきなんだ。

 今更気がついたって遅いのに。もうあと数時間後には、彼は海の向こうへと行ってしまうのに。

 眉を下げ優しく微笑む彼の瞳に、今にも泣き出しそうな自分の顔がくっきりと映っていた。