「いらっしゃいませ」

 カランカランと軽やかなベルが鳴る。あたたかなオレンジのライトが天井からつら下がっているそこはコーヒー豆のいい香りでいっぱいだ。

「タピちゃんじゃない!」

 頭を下げれば、このカフェのチーフであるその女性は嬉しそうに手をあげる。ユージさんを見て、それからふふふと意味深に私に笑いかけた。ちょっと恥ずかしいけれど、どうしてもここにユージさんを連れて来たかったのだ。

「何がうまい?」
「アーモンドミルクのココアが一番好きです」
「じゃあ俺もそれで」

 かしこまりました、とチーフはそう言ってドリンクを作っていく。

「お待たせしました」

 そう言ってカウンターに並べられたふたつの紙カップ。そこには、thank youという文字と私達の似顔絵が並んでいた。

「雰囲気のいい所だね」
「親友がバイトしてたカフェなんです」

 そうなんだ、と言いながらユージさんは店内をじっくりと見回す。そして「こんな感じだったのかな」という彼の呟きにそうですよと私は答えた。不思議そうな顔をするユージさん。

「キラキラさんが通っていたカフェ、こんな感じだったのかなって思ったんじゃないですか?」
「……声に出てた?」

 ユージさんは心底驚いた顔をしている。

「ここです。キラキラさんが通っていたカフェ。恋をしていたカフェ」

 その意味がわかったとき、ユージさんの瞳は大きく見開かれた。さらにはその相手の女の子がわたしの親友──ユージさんに何度かメッセージを送ったことのあるカフェ子だということを伝えると、彼はキツネにつままれたような表情をしてから笑い始めた。
 タピちゃんと、タピオカスタンドの女の子が同一人物だって分かった時にも世間って狭いと思ったけど、まさかこっちでも繋がっていたなんてと彼は笑う。それからもう一度、カウンターや店内をじっくりと眺めていた。
 今日キラキラさんもカフェ子もお仕事でここにはいない。だけど、ユージさんには見えたのだろう。カウンターでドリンクを作るカフェ子と、そんなカフェ子に恋をするキラキラさんの姿が。
 ココアは甘さ控えめで、冷えた体をほっこりと温めてくれた。