「遅いよタピちゃん!!」
慌てていつものお店に向かえば、ピータンさんが赤ら顔で仁王立ちしていた。すみません、と頭を下げて靴を脱ぐ。優しい瞳でこちらを見ているユージさんの視線から逃げるように、壁に貼ってあるメニューに目をやる。
「お前、ここ」
適当に腰を下ろそうとすれば、ヒロさんに声をかけられてしまった。示された席は、ヒロさんとユージさんの間の席だった。
「お疲れ様。色々やること残ってた?」
「……はい」
ドキドキしながら座れば、運ばれてきたばかりの生ビールをユージさんが手渡してくれた。それじゃあ改めて、とユージさんが私に言うと、それを聞きつけたピータンさんが大きな声でかんぱーいと叫んで、結局その場にいた全員で、本日二度目となるらしいジョッキを合わせるという行為をしたのだった。
ユージさんはすぐ隣にいるものの、彼は周りからの言葉に返すのに忙しく、私は逆隣のヒロさんとぽつりぽつりとフライドポテトを齧るのと同じ速度で言葉を交わすだけだった。こうやって、時間は過ぎて行くのだろうか。話せないまま、視線を合わせることも出来ないまま、ユージさんはまたアメリカへと行ってしまうのか。そんなの嫌だ、と顔を上げた時だった。ユージさんがそろそろ、と立ち上がったのは。
「始発の時間なんで、タピちゃん駅まで送ってきますね」
え、と自分の名前が出たことに驚いて見上げれば、彼は私を見て笑顔で頷く。ほらいけ、とヒロさんが私の鞄を手渡した。まだいいじゃん!と文句を言うのはピータンさんひとりで、他の人たちは特に気にするでもなくジョッキを傾けたり、舟を漕いだりしている。プロデューサーは、おつかれ、と私に言った。
行こうか、というユージさんの声に腕を引かれるように立ち上がる。ユージさんと話せる。ユージさんとの時間を持つことができる。震える胸をおさえながら、彼の背中を追いかけた。
座敷の上り口に座っていた来栖さんは、すうすうと寝息をたてていた。