「ユージおかえり!乾杯!」

 そんなプロデューサーの音頭にあわせてジョッキを掲げる。ごちんと小気味よい音が何度か弾けると斜め向かいにいたユージさんと視線が合う。俺たちは何も言わず、お互いにジョッキを小さくぶつけ合った。

 新生ミッドナイトスターの打ち上げは、馴染みの居酒屋で行われた。予約もなしで20人弱。それでも入れたのはなじみの店だということと、平日の深夜だということが理由だ。店主はユージさんの姿を確認すると、驚いてから久しぶりだなぁなんて手をあげていた。俺なんかよりもずっと前から、この店に来ていたのだろう。同じ業界、同じ局、同じ店、同じ行動範囲。どうして今まで俺と彼は接点がなかったのか。今思えば不思議に感じるほどだった。

 DJユージを見かけたことならば何度もある。ちょっとした挨拶くらいだってしたことはある。しかし局内にはADなんてたくさんいて、パーソナリティもそれなりにいる。番組を一緒にやるということなどがなければ、接点なんてそうそうない。
 人気DJという印象は最初からあった。才能の塊だという話も聞いたことがある。タピ子がユージさんに憧れてこの世界に飛び込んだということは知っていたけれど、実際に彼女の口からユージさんという名前が出たことは一度もなかった。──少なくとも、俺の前では。
 そんなに売れていて、フリーでパーソナリティをしていて、担当番組も人気絶頂期に突然やめ渡米したDJユージ。一体どんな人なのだろうかと思っていた。どれほどにカリスマ性にあふれていて、気取っていて、現実離れした人なのだろうかと。いや、そうであってほしいと願っていた部分もあったかもしれない。こんな凡人の俺とは、まったくの別世界の人間なのだと、そう思いたかった。そんなすごい人が相手ならば、敵うはずがないと思いたかった。だってそうだろう?タピ子はずっと、彼のことだけを追ってきて、そして今でも、彼のことだけを見つめているのだから。