「お疲れ様でした!」
エンディングの曲が入りヘッドフォンからは来栖さんの終了を報せる声が届く。ふぅ、と小さく息を吐き出した私はヘッドフォンを両手で外し、前を見た。同じようにヘッドフォンを外して、前髪をさらさらと直すユージさん。私の視線を捉えると、彼は柔らかく笑う。
「タピちゃん、久しぶりだね」
「本当に、びっくりしたじゃないですか……」
さっきまでスムーズに会話をしていたはずなのに。結局マイクがオフになれば、私は昔と何ひとつ変われていない。ユージさんの前ではうまく話すことが出来なくて、顔だってまともに見ることが出来ない。
会いたかった。すごくすごく、会いたかった。やっと会えたのに、嬉しいという言葉も感情も表わすことが出来ない。
「それにしても、本当立派なDJになっちゃって。有言実行だね。すごいよ」
ユージさんはそう言って腕時計をちらりと見た。と同時に、がちゃりとドアが開き来栖さんやヒロさん、プロデューサたちが入ってくる。放送に夢中で気づかないうちに、みんながユージさんを見に来ているようだった。
立ち上がり挨拶をするユージさんを、ただただぼうっと見つめることしか出来ない。ユージさんがここにいる。わたしの目の前に。それなのにどこかそれは現実味がなくて、なんだか夢を見ているみたいだった。
「お疲れ。いい放送だったよ」
ユージさんの輪から離れ、来栖さんがこちらにやって来た。その言葉によって、やっと肩から力がふっと抜ける。いまの私にとって、来栖さんの声だけが、これは現実だ、夢じゃないと教えてくれる道しるべのようだった。
「大丈夫……だった?」
見上げれば、来栖さんは力強く頷く。そして思った。きっとこうやって今日、きちんとプロのパーソナリティとして番組をやり切れたのは、この人がいてくれるという心強さがあったからなのだと。やっぱり来栖さんは、私の大切で頼もしいパートナーなのだと。