「ああああ!!」
「静かにして!!」

 背中をばしっと叩かれる。

「だって、だってさ!?こんなのってさ!?」
「分かってるから!聞こえないからお願い黙って!!」

 ボリュームをぐぐっとあげて、なおかつスピーカーに耳を寄せて彼女は全神経を聴覚に集中させる。俺だって、聞きたいのは山々なんだ。だけど、それよりも感動と興奮が勝ってしまって思わず声が出てしまったんだ。そういう彼女だって、ヒッという声にならない声を漏らしていたことに俺は気付いていた。

 タピ子ちゃんの記念すべき初冠番組。それはなんとあの、ミッドナイトスターだった。あの場所がかえってきた。新しいDJタピーの番組として。
 毎週あの時間、ラジオにかじりついていたことを思い出す。顔も名前も知らない俺たちはそれでもたしかに繋がっていた。ユージさんという一人の人を中心として、俺たちは大きな輪となっていた。まさか、あのタピ子さんが、本当にDJになるなんて。──その前に、俺の彼女の親友がタピ子ちゃんだということに非常に驚いたという話は、また後日機会があれば──。

 俺が、今隣りで天井を睨みながらスピーカーに耳を寄せる彼女と付き合うことが出来たのも、全てはあの番組、そしてユージさんのおかげだ。この番組は俺たちふたりにとっても特別なものだ。だから心から嬉しかった。これからも、この番組がたくさん愛されることだけを祈った。タピ子ちゃんが、多くの重圧や過度の期待につぶされないよう、リスナーである自分たちが支えていこうと変な正義感まで抱いた。

 そう思ったのは、俺だけじゃないと思う。その証拠に、番組の前半で紹介されたメッセージの中には旧ミッドナイトスターでいつも聞いていたなじみのあるラジオネームが溢れていた。きっとみんな、タピ子ちゃんのことを妹のように感じているのかもしれない。

『ここでゲストの登場です!』

 曲が終わるとそんな声が聞こえる。ゲスト?前のミッドナイトスターでは3年間、一度もゲストが来ることはなかったのに。

『みなさんこんばんは、お久しぶりです。DJユージです』

 そして冒頭に戻るわけである。