たくさんの懐かしいラジオネーム、そしてはじめましてのメッセージがたくさん溢れ、番組内では全てを紹介しきれなそうだ。

「それじゃここで、一曲お届けしますね!」

 来栖さんの合図で曲紹介をした私はふうと一息ついて水を飲んだ。緊張する。だけど楽しい。楽しくて仕方ない。ぞくぞくと、興奮が体中を痺れさせながら駆け巡る。
 流れている曲を口ずさんでいると、ヘッドフォンから来栖さんの声がした。

「あ、タピ子。曲開けでさ、ゲスト入るから」
「えっ!?」

 待て待て。ゲストが来るなんて聞いてない。

「大丈夫だろ、お前インタビューだって長いことやってきてるし」
「そういう問題じゃないよ!生放送で打ち合わせもなしに、誰かも分からないのにゲストが来るなんてっていうか曲終わりまであと1分しかないじゃん!」
「あーまー、大丈夫っしょ」

 大丈夫なわけがない。ばたばたと立ち上がり窓の向こうを見ると、来栖さんが立ち上がって軽くお辞儀をしているのが見えた。その相手は、ちょうど扉の奥にいるらしく、私からは死角になっている。

「んじゃ曲開け30秒前」

 彼の声に慌ててヘッドフォンをつけ座りなおす。

「20秒前」

 だめだ落ち着け。これは生放送。

「10秒前」

 私はプロのパーソナリティ。どんな状況でも、しっかりと生放送をやってみせる。

「5秒前」

 誰が来ても大丈夫。

「4」

 相手の話をきちんと聞く。

「3」

 それがパーソナリティの仕事なんだ。

「2」

 すうっと深呼吸をした。

「1」

 カチャリと扉が開いて、ひとりの人が私の向かいに腰を下ろした。来栖さんのキューが出る。

「ここで、ゲストの登場です」

 大丈夫。大丈夫。声も震えていないはず。大丈夫大丈夫。初めましてだとしても、インタビューならたくさん今まで経験してきた。相手がどんな人であっても、きちんと話を聞けるはず。
 呼吸を落ち着かせて、ゆっくりと顔を上げて正面を見た。


「みなさんこんばんは、お久しぶりです。DJユージです」


 視界が涙で弾けて飛んだ。