満を持してもたせた冠番組、ミッドナイトスターは局内でも一位二位を争うほどの人気番組へと成長した。普通人気番組というのは、月曜から金曜まで連続して放送する帯番組が多いのだが、週一回の一時間の番組。それも深夜の時間帯の番組がここまでヒットを飛ばすというのは開局以来の快挙だった。それでもユージは落ち着いていて、そして冷静だった。地に足がついていて、さらに上を、完璧を求める。常に新しいものをと考えては、自ら企画を持ち込むことも多々あった。
そんなある時、ヒロの担当する番組でインタビューコーナーを新しく打ち出すことになった。よりリスナーに寄り添う企画を、ということで決まったもののインタビューを務めるリポーターが見つからない。話を聞くことがしっかりとできて、それでいて相手の言葉を引き出せる人物。いかんせん10分という短い時間だ。いかに第一印象で距離をつかむことが出来るか。それがとても難しい問題だった。
いくつかの事務所から新人の候補者を募って審議をした。面接をする前に、まず書類である程度絞らなければならない。数人のディレクターやスタッフたちと頭を寄せて書類を見ていたときだった。
「何の番組ですか?」
立ち寄ったユージが声をかけてきたのだ。番組とコーナーの趣旨を説明し机の上に広がる候補者たちの資料を見せると、彼は人差し指ですーっとそれらを滑らせながら興味深そうに眺めていた。ある一枚の紙の上──ぴたりと彼の指が止まるのを俺は見た。
「お前、知り合いか?」
じっと見つめる彼の視線の先には、少し前に事務所の社長に連れられてきた、あの女の子のプロフィール。社長を含め3人で飲みに行くくらいの関係性にはなっている新人の女の子だ。しかし、まだ経験も浅い。いきなりリポーターとしてコーナーを持たせるのは時期尚早かと思い、候補者の束からはよけて端に置いてあった一枚だった。
ユージは俺の質問に何も答えなかった。しかし、そのときに、ほんのすこし──彼の口角があがったのを俺は見逃さなかったのだ。
「いいリポーター、見つかるといいですね」
ユージはそれだけ言うと、黒いジャンパーのファスナーを顎の下まできゅっとあげて、首をうずめながらポケットに手を入れて歩いて行った。
彼の背中が扉の向こうに消えたあと俺は覚悟を決めて、一枚の紙を顔の前に持ち上げた。
「誰にでも、“はじめて”というものが、あるもんだよな」
こうして、異例の抜擢は実現した。彼女は若さゆえの未熟さや青さがあり、何度もつまずき、そして立ち止まった。それでも本人の根性と、周りの支えによってそれらを克服し、吸収し、どんどんと成長していった。マイクの前で声を出せないという、パーソナリティとしては致命的ともいえる窮地に陥ったもののそこから見事這い上がり、それからもうあっという間に1年が経った。インタビュー番組、そして最近では朝の生放送のアシスタントパーソナリティを務めるくらいにもなった。
彼女がこうやって立ち上がって進んでいけるのは、間違いなく、周りとリスナーからの支えがあるからだ。
ユージに話す才能があるのだとしたら、彼女には周りから愛されるという才能があるのだろう。