「お前、本当すごいな」
「なにがですか?」
「いや、才能があるっていうのは、お前みたいのを言うんだな」

 ある収録番組のあと、テラスのガーデンで一服していたら、同じように一息つきに来ていたユージと顔を合わせた。非喫煙者であるユージは気分転換に外の空気を吸いに来ていたのだ。
 二人きりで話す機会などはそれまでになかったから、素直に思った言葉を発してみた。普段あまり人を褒めたりしない鬼プロデューサーなんて異名を持つ俺だが、彼に対しては素直にそう思っていた。しかし、ユージは露骨に顔をしかめたのだ。

「それは、嬉しくないですね」

 彼のそういうところも、気に入っているところだった。立場や役職を気にしてへこへこしたり、媚びたりするようなタイプではない。しかしこの言葉には、さすがの俺も首をかしげる。おいおい、鬼と言われる俺が素直に認めてるって言うのに何が不満なんだ。

「才能、才能って。才能があれば、何もしなくても出来るって言われているみたいじゃないですか」

 ユージはそう言って、足元に転がっていた花壇の小石を蹴飛ばす。
 ああそうか。才能だけで、今の彼が在るわけではないのだ。様々な努力や苦悩があってこそ、彼の才能は光り輝いているのだ。

「悪い悪い。そういうつもりじゃなかったんだ」

 不満を漏らす彼は、年相応に見えてどこかかわいらしさすら感じてしまう。彼は天才パーソナリティかもしれないけれど、それと同時に、普通の人間なんだと当然のことに気付かされる。
 才能、という生まれながら持ってつけられている足かせによって、彼はどんな思いをしてきたのだろうか。どんなに努力をしたとしても、才能のおかげだねと軽くあしらわれていたのかもしれない。どんなに苦しんでいても、才能があるのだから大丈夫だろうと、誰にも打ち明けられなかったのかもしれない。周りからは憧れや尊敬ばかりを抱かれて、弱音をこぼしたくてもこぼせなかったのかもしれない。そうやって、ずっとひとりで抱え込んでいたのかもしれない。ずっと孤独の中、走り続けてきたのかもしれない。

「──まあ、一服してみろよ」

 そう言ってタバコを差し出してみたら、俺の売り物は声なんですけど、と思い切りしかめ面をされたから笑ってしまう。
 才能があるからじゃない。
 天才パーソナリティだからとかそういうことでもない。

 そういうことを抜きにして、こいつはいいパーソナリティになると、俺は確信したんだ。