「それにしても奈月ちゃん、大きくなりましたね。まさかまた会えるとは思いませんでした」

奈月は真帆さんの膝の上でうつらうつらと船をこぎ始めた。そのタイミングでようやくこちらへ引き取る。

「じゃあ、私、行きますね。奈月ちゃん早くお熱下がるといいですね」

「あ、ちょっと待って!」

立ち上がった真帆さんの手を思わず掴んでしまい、迂闊なことをしたと慌てて引っ込めた。職業柄もあるが、昨今セクハラだなんだのと世の中がうるさいから。

「先生?」

「あ、えっと、あー、僕が言うのもおかしな話かもしれないのですが、真帆さんは僕の自慢の教え子ですよ。これからも元気で頑張ってください」

何だろう。
何か伝えなくちゃと思ったのに、引き留めておいて出てきた言葉はありふれたものだった。

本当は、学生のとき俺のことを好きでいてくれてありがとうと言いたかった。

教員採用試験に立て続けに落ちて、なんとか採用されたのが女子校だった。女子校なんて最初は乗り気じゃなかったんだ。自分には合わないと思っていたからだ。

だけど真帆さんに好かれていることが俺の教師としての一種の自信に繋がった。転職も考えていたのに、いつの間にかこの学校でもやっていけるんじゃないかと思わせてくれた。

真帆さんの成長と共に、俺も教師として成長させてもらったのだ。

ずっと彼女に感謝していた。

「私も、梶先生は自慢の恩師です!」

くしゃりと笑う彼女はやっぱり学生のときの面影も残っていて、懐かしさを覚えて胸が熱くなった。



【END】