「すみません、案内してもらって」

「いえいえ、こんな短い通路で道に迷う人始めてみました。しかもそれが梶先生だったなんて」

真帆さんは明るく笑い飛ばし、奈月を抱っこしてくれている。
受付で保険証やら問診票の記入に手間取った俺を見かねて手伝ってくれたのだ。

「なんか飲みたい……」

「奈月ちゃん、先生の診察が終わるまでは飲んじゃダメだよ。でもまだまだ時間がかかりそうだね。おりこうさんできるならお姉さんがお茶をあげるよ」

「なつき、おりこうさんできる」

「先生、私さっき買ったばかりのノンカフェインの麦茶を持っているんです。奈月ちゃんにあげてもいいですか?」

「え、ああ、ありがとうございます」

奈月はすっかり真帆さんに懐いてしまって、膝の上に抱かれておとなしくお茶を飲んだ。

「真帆さんすみません。お茶代払いますね」

慌てて財布を出すと、手で止められる。

「先生、いらないです。これはタピオカミルクティーのお礼です。ま、だいぶ安いと思いますけどね」

そう言って柔らかく笑うものだから、素直にいただいた。教え子に奢ってもらえる日が来るとは何だか感慨深い。