初めての営業で緊張してガタガタと震えている彼女。
まぁ最初は、皆そんなもんだ。
しかも生命保険などの保険の営業は難しい。
保険会社は、人気もあり給料もいいが
実際は、ノルマもキツくてなかなか入ってもらえない。

嫌がられたり、キツくて辞める人も
多いと言われている。
つまり新人をどう一人前の営業マンにするかは、
上司や先輩達の手にかかっているという訳だ。
俺が上司として営業の基礎やお客様の接し方を
教えてやらないとな。

「まどか。保険の営業にとって大切な事は、
何か分かるか?」

「えっと…保険のアピール力とかでしょうか?
営業力とか」

うむ。無難な回答だね。
普通ならそれでいいのかもしれない。
しかしそれだけではない。

「残念……違う。必要なのは、
どれだけ相手側に寄り添えるかだ!」

「保険に入る以上…色々備えや
その家の家庭事情がある。俺達営業は、
それを悟り1番いい保険を勧めないとならない」

そう言い教えた。
彼女は、意味が分からなそうだったけど
いずれ分かる時がくる。
経験が彼女を大きく変えるだろう。

俺は、気にする事もなくそのマンションに入って行く。
8階建てのファミリー向けのマンションだ。
彼女は、その後ろを必死についてきた。

エレベーターのボタンを押そうとした時
何処からか声が聞こえてきた。

『おじちゃん。5階だよ。5階に来て…』と
声からして幼い男の子だろう。
しかし、おじちゃんじゃないぞ?
俺は、まだ34だ。
とりあえず言われるがまま5階に上がった。

「課長…何で5階から何ですか?」

「いや…呼ばれてね。ここにしろって…」

不思議そうに首を傾げながら聞く彼女だった。
さて、どっちかな?
俺は、気にすることなく気配を探る。
するとまた声がした。