滝修行とは、白装束に着替えて
滝に打たれ精神を統一したり雑念を祓うために
行われる。この修行は、冷たいけどいい。
自分の気持ちを整理させたり、流した涙を
誤魔化せるから。
だから、辛い事があるとよく利用していた。
滝に手を合わせ一礼すると中に入る。
やはりまだ4月なので水が冷たいな。
滝に打たれながら意識を集中させる。
しかし。思い出すのは、麻衣ちゃんの事だった。
まだ記憶に残る彼女の涙。悲痛の叫び声。
周りの壇家さん達には、
“仏の子”とか言われたりしたが……全然違う。
こんな無力で汚れた手を持つ俺が仏の子だなんて
有りえない。
麻衣ちゃんを救ってあげられなかった
俺に力がないばかりに……。
頬に伝う涙は、滝の水と共に流れた。
悔しい。心が痛い……。
するとその時だった。
「おやおや。やはりここに居たか……龍心」
「お祖母様!?何故……ここに?」
お祖母様が何処からとなく俺の前に
現れた。俺は、驚いてしまう。
お祖母様は、唯一記憶が読み取れない人物だ。
「可愛い孫の悲痛の声が聞こえてね。
さぁ、こちらにおいで。
風邪をひいてしまう……龍心よ」
こちらに来るように言われる。
俺は、素直にそれに従う。
さすが…お祖母様だ。
同じ千里眼を持っているが、長年の経歴と
修行でお祖母様の中は、見る事が出来ない。
だから今、何を思っているのか
俺には分からなかった。
タオルで身体と顔を拭いていると
「お前を見ていると若い頃の私を思い出すよ」と
懐かしそうに言ってきた。
「若い頃……ですか?」
「あぁ私も……千里眼の力や
霊力が強過ぎてね。こうやってイタコとして
力を使った後は、よくお前みたいに泣いていた。
私もお前も人の子だ。救えない命もあるさ。
それを悲しむのは、けして悪い事ではないが
それは、前世で償うはずだった罰。
あの子もその罰を償い今……全てリセットされた。
来世は、幸せになれるだろう。
私の目では、幸せな人生を歩む姿が見えるよ」
来世に……前世。