ご主人の想いは、私まで涙が溢れてきた。
不器用ながらもずっと感謝をしていたご主人。
そして奥さん。
何て素敵な夫婦なのだろう。
私と課長は、挨拶をすると
そのまま会社に戻る事にした。
「良かったですね。契約も無事に取れましたし。
ご主人の想いも届けられて…」
まだ幽霊とか苦手で居ない方がいいと
思っていたけど、こんな風に
想いを伝える事も大切なんだ。
幽霊にだって…想いがあるのだと初めて知った。
不思議な気分だった。
「そうだね。今回もいい霊だった。
幽霊にも3種類あるから。あのご主人のように
心残りがあり成仏が出来ないのが浮遊霊。
自由に動き回る事も出来るし、まどかに
まとわりつくのもその浮遊霊だ。
まぁ、楽しんで成仏しないのもいるが。
そして、生きているけど
想いが強過ぎて魂だけ移動してしまう生き霊」
「そして、1番厄介なのは…地縛霊。
相手の恨みが強過ぎて怨霊化してしまう可能性が
高い霊だ。人を死に引きずり込もうとするのは、
地縛霊の仕業が多い」
地縛霊……!?
それを聞いた時ゾクッと背筋が凍った。
その霊には、会いたくないと思った。
想像するだけでも怖い。
「浮遊霊は、イタズラ好きな人も多くて
心霊写真に写ったりして楽しむぐらいだけど
地縛霊は、人を死に追い込んだりするから
気をつけろ」
するとそう言っていた課長が急に
立ち止まった。えっ?どうしたの?
私は、意味が分からずにオロオロしてしまった。
「課長?どうかなさいましたか?」
歩いている最中に立ち止まるなんて
どうしたのかしら?
驚いて声をかけてみるとジッと課長は、
何かを見つめていた。
「…どうやら
噂をすれば何とやらか……」
えっ?
私もその方向を見ると8階建ての
古いビルが建っていた。
不気味なぐらいに古く薄暗い建物だ。
「ビルですか?」
「あぁお前は、そこに居ろ。
絶対に俺が戻って来るまでビルの中に
入らないように」