その光景は、映像でも見えた。
旦那さんが結婚記念日のために
飲み代や小遣いを節約して指輪を買う計画を密かに
していたこと。何度も宝石店に通い
今日それを取りに行くつもりだった。
すべては、奥さんのためだった。
いいのですか?今ですよ。
想いを伝えられるのはもう最期になるって
あなたは、もう気づいているでしょう?
心の中で旦那さんに話しかける。
本当は、もう俺に対する疑いは晴れているのだ。
後は、素直になるだけ。
しばらく黙っていた旦那さん。
『……おい。伝えてくれ』
そう言って旦那さんが言った。
奥さんに対して伝えたかった言葉は、
とても温かい言葉だった。
「まさか…結婚記念日だなんて
忘れていたと思っていたのに……」
「ご主人は、忘れてなんかいません。
ただサプライズをしたくて…お酒を飲んだと
嘘をつき貯めていた。まぁ、今回は
同僚の奢りで誘われたらしいですけど。
ご主人が照れながらもおっしゃっています。
〝いつも感謝している。ありがとう
そして愛している〟と…これを私に
伝えて欲しかったみたいですね。ご主人は…」
そう……これが。
ご主人の本当に伝えたかった言葉だ。
奥さんは、涙を流しながら封筒をギュッと握り締めた。
「あなたったら…本当に。
最期まで不器用なんだから」
そう言いながら……。
『……弥生……』
ご主人が奥さんの名前を呼んだ。
すると身体が少しずつ薄れていく。
気持ちが言えて成仏に向かっているようだ。
「おや…?もう時間のようですね。
身体が薄れています。
思い残す事が消えて成仏に向かっていますね。
迷わないようにお経を唱えたいと思います」
「……はい。
よろしくお願いします」
奥さんは、深々と頭を下げた。
ロウソクに火をつけると数珠を手にお経を唱えた。
唱えながらご主人に、話しかけてみた。