頭が余計に混乱した。も、もう一度……。
私は、もう一度留守電を再生させる。
課長の言葉を確かめたかった。
再生される声を聞いているとある言葉が頭に過った。

『大切な事を話すからよく聞いて。
お姉ちゃんは、きっと近い内に
大きな選択をすることになる。
だから、けして繋ぐ手を間違えないで。
お姉ちゃんの本当に好きな人から目を逸らさないで』

夢の中で言っていた龍聖君の言葉。
繋いだ手。その手は……もしかして課長のこと?
私が本当に好きな人は……。

そう考えた時。私は、改めて考えさせられた。
私は、課長の繋いでくれた手を自ら離そうとした。
自信が無いからと…目を逸らしてばかりで
課長の事を信じようともしなかった。
こんなにも課長は、私の事を想っててくれたのに。
それなのに……ごめんなさい。

涙が溢れてきた。後悔と罪悪感で
いっぱいになる。このままではいけない。
目を逸らしたらダメだ。

私は、慌てて女子トイレから出た。
涙を拭きながら長谷川君が待っている
席まで向かった。

「あ、遅かったな?ビールならもう来て…」

「ごめんなさい」

長谷川君の言葉を遮るように頭を下げた。
突然の謝罪に彼は、意味が分からない様子だった。
それでも言わないといけない。

「えっ……? 
どうしたんだ?急に」

「…ごめんなさい。
私が手を繋いで歩きたいのは、あなたではなかった。
私もう二度と後悔したくない」

それだけ言うともう一度
頭を下げてお店から飛び出した。
長谷川君……本当にごめんなさいと思いながら

「お、おい。長谷部!?」

慌てて呼ぶ声が聞こえたけど気づかないふりをする。
こんな私の事を好きになってくれて
ありがとう。
でも、自分の好きな人は、あなたではなかった。
私の好きな人は……。

無我夢中で走った。
こんな時間だと何処に居るのか分からないのに。
もう自宅に帰っちゃった?
それとも何処かの家でお経を唱えているのだろうか?

お願い。もし課長が私の運命の人なら
あなたの所に連れて行って。
二度と目を逸らさないから私を愛する人のもとへ……。