『パパ。ごちゃごちゃうるさいよ?
心愛。そんな難しい話とか分かんな~い』

女の子は、ケラケラと笑いながらそう言ってきた。
ごちゃごちゃうるさいって……。

『心愛。話の邪魔しないで。
父さん。世の中には、まだまだ知らない事が
たくさんあるよ。
仏様も……色々と考えがあるようだし。
それより時間だ。もうお別れだ』

「えっ?まだ色々と聞きたい事が……」

まだ聞きたい事はある。
俺とまどかの子供なら俺達は、確かに
結ばれる事になる。それに……。
すると男の子は、クスッと笑った。

『覚えおいて。僕は、龍聖(りゅうせい)
そして隣に居るこの子が』

心愛(ここあ)だよ。ママと仲良くしてよね。
心愛。早くママに会いたいもん』

その声は、段々と薄れていく。
ハッと気づくと目の前に滝があった。
周りは、元の世界になっていた。

あれは……夢だったのか?
彼女を想うあまり……幻を見ていたのか?
しかし、自分の手を見る。
さっきのイライラや不安が嘘のように消えていた。
不思議と気持ちは軽い。風が……気持ちいい。

そうだよな。
ママと仲良くしないといけないよな。
このままだと離れ離れになってしまう。
何とかしないと……。

すると遠くの方から
鈴木さんと清水さんの声がした。
どうやら、あまりにも遅いから心配して
捜しに来てくれたようだ。

これは、悪い事をしてしまった。
俺は、そのまま帰る事にする。
ちゃんと謝らなくちゃあ……。
自分が悪いと思うのならなおさらだ。

翌日。俺は、会社に出勤するといつものように
女性社員達の悩みを聞いていた。すると
しばらくして彼女が出勤してきた。
謝らないと…。

だが彼女と目が合うと
慌てて目線を逸らされてしまった。
彼女は、日比野さんに伝言を頼むと
オフィスから出て行ってしまった。

まどか!?避けられてしまった……。
話をしたかったのに…顔を合わせづらいと
思われたらしい。ズキッと胸が痛む。
しかし、もっと複雑な事が起きる事は、
その時は…気づきもしなかった。