頼むから大人しくしててくれ。
話が出来ないから……。

「あ、あぁすみません。こら、爽太。
大人しくして、こっちに来なさい!」

奥さんが慌てて叱ると爽太君は、
ピタッと動きが止まった。
おぉ、さすが母親。効果てきめんだ!

『ママ~』

爽太君は、嬉しそうに母親の元に駆け寄って行く。
俺は、それを見ながら切なくなった。
そうだよな…まだ5歳だもんな。
いっぱい甘えたかったよな。それなのに……。

「爽太…」

切なそうに我が子の名を呼び触ろうとする。
だが、幽霊なので触れる事も出来ない。
スルッと手が抜けるとショックで涙を流していた。

「ごめんね…ママのせいで…」

泣きながら必死に爽太君に謝った。
するとさっきまで明るかった爽太君は、
泣き出してしまう。

『ママ…泣かないで……。僕が悪いんだから
ひっく……だから…泣かないで』

小さな男の子が謝る姿は、余計に可哀想だった。
心を痛めている……。
大好きなママを泣かしてしまったから。
何とかしてあげたい。でもそれは、出来ない事なんだ。
人の寿命は、変える事は出来ない。
例えいくら願ったとしても。

「人には、寿命が決まっています。
短い人から長い人まで……爽太君は、すでに
寿命が決まっていたのです。そして
その命は、天に昇り新しい生命として
また新たに生まれ変わる。だからあなたのせいではない」

俺が唯一出来ることは、伝える事と
成仏させることだけ。
辛くてもまっとうしないといけない。

「でも、車さえ引かれなかったら
少しでも長く生きられたかも知れないわ」