俺は、父さんとつい口喧嘩をしてしまった。
父さんの表情や心情を感じ胸が苦しくなった。
分かっている。本当は、何を言いたいのか。

「待って下さい。龍心お兄様」

麻白は、俺を追いかけてきた。
本堂の中は、お釈迦様が祭られている。
立派で気高いお釈迦様を眺めると胸が苦しくなった。
あなたは、俺のやり方を間違っていると思いますか?
母さんを……彼女に会わせたいと思う
気持ちを否定しますか……?

「うわぁー凄い!!」

まどかの声でハッとした。まどか……。
するとそばに居た麻白が

「龍心お兄様。おじ様の事は、
真に受けない方がいいですわ。
私は、龍心お兄様の方が正しいと思いますもの。
幼い頃にお会いしたおば様を見た時
感動しましたわ」と
そう言って俺を励ましてくれた。

……麻白。
彼女は、純粋に俺を心配してくれていた。

「……麻白。ありがとう」

お礼を言うとまどかの方を振り返った。
まどかの方は、切なそうな表情していた。
俺は、自分の気持ちを誤魔化すよう微笑んだ。

「まどか悪いな。また、変な所を見せちゃって
父さんとは、普段から
あんな感じだから気にしなくていいから。
それより、さぁ掃除を始めようか」

こんな情けない気持ちを彼女らに悟られたくない。
これは、男としての惨めなプライドだった。
そう思うこと自体、情けないのにな。

それだけ言うと外に戻った。
俺は、平気なように周りに接した。
他の檀家さんと仲良く話をしたり
途中で遊びに来た子供達の相手をしてあげた。
しばらく必死に平気を装い周りに接していたら

『おい、龍心。龍心ってば!!』

清水さんが遠くから呼んでいた。
清水さん?それに鈴木さんまで
何だろうか?
近くまで行くと2人は、慌てていた。