秘書の役目を任命された。凄いありがたい話だ。
しかし俺の気持ちは、すでに決まっていた。
俺は、頭を下げた。
「その話の事なんですが、お断りさせて下さい」
「どうしてだ?何回も言っているが
お前の力は、会社にとって必要だ。
もっと活躍を出来る環境でその力を活かすべきだ!」
そう言ってくれる社長の言葉は、ありがたい。
最初は、どうやって訪問客や部下達に
接したらいいか悩んだ。
能力や霊感のせいで人間関係に苦労したから
一歩間違えたら嫌われ者だ。
そんな時……鈴木さんにアドバイスを貰った。
丁度スピリチュアルがブームになっている頃だったから
それを利用しろと。普段なら怖がられる能力でも
講演会みたいにアドバイスや悩み相談に使えば
人を寄せ集めるだけの魅力になるからって。
鈴木さんのアドバイスは、見事的中した。
さすが、長年幽霊としていろんな事を
経験しているだけあって見事なアドバイスだった。
俺も見習わないといけない事はたくさんある。
しかしそれを活躍出来る環境は、ここではない。
秘書に相応しいのは、俺ではなかった。
本当に相応しいのは……。
「前に話した通り、あまり大きい役職を
与えられると父に仕事を辞めさせられます。
それだけじゃない。
俺なんかより秘書に相応しい人が居るからです!」
「君より……秘書に相応しい人?
誰だね?そんな人が居たか?」
俺より会社の事を深く思い
とても真面目で優秀な人物。そして
誰よりも責任感が強い。それは…。
「海外営業課で現在俺の代理をしてくれている
志藤静さんです」
「志藤君……?確かに彼女は、
海外営業課でも優秀だと聞いているが
優秀なら君も同じじゃないか?」
「いえ。彼女の方が優秀です。
彼女は、責任感が強く真面目。何より
会社の事を一番に考えている。
会社に必要なのは、そういう人です」
彼女の期待は、これからさらに大きくなる。
それこそ、会社の中で1番の戦力になるぐらいに
渋る社長。こんなにも必要にされるのは嬉しい。
だが、気持ちに応えられない。
「彼女は、これからさらに大きく成長するでしょう。
会社のためにと考えるならこれも
一理あると思います。ぜひ考えてみて下さい。
もちろん必要であれば、俺も精一杯力をお貸しします」
俺は、社長をなんとか説得してもらい
部署に戻れる事になった。
良かった。これで彼女や皆と一緒に働ける。