まどかとキスをしてしまった。
だけどそれ以上は、やめて帰ることにした。
このまま一緒に居たら
自分でも止められるか自信がない。
俺だって男だ!

遅い時間に好きな人が目の前に居て
キスまでしたら抱きたいと思うのが
自然の流れだろう。だが、そういう訳にはいかない。
せめて彼女と婚約するまでは……。
俺は、グッと我慢する。

帰り道、彼女のアパートの近くにある
自販機に行くとミネラルウォーターを購入する。
そしてゴクゴクと飲んだ。
ハァッ……とため息を吐き気持ちを落ち着かせた。
何をやっているのだろう……俺。

結局は、何やかんやと言いながらも
ただ度胸が無いだけだ。言い訳をして
いざ手に入れられるかもと思ったら
怖じ気づいてしまった。

好きだし彼女の気持ちも分かっている。
なのに……怖い。
自分の手を見つめる。

本当に……俺でいいのだろうか?
この手で抱いて……。
ギュッと握り締めると飲みかけの
ミネラルウォーターをごみ箱に捨てて帰った。
自宅に着くと鈴木さんが俺を見るなり

『お帰りなさい。あら?
何かあった?深刻そうな顔をして』と
すぐさま様子に気づかれてしまった。

ただいま。うーんちょっとね。
あれ?清水さんは?
思わず誤魔化したがドキッとした。
さすが鋭いな。

『今日は、向こうでお泊まりするって
ほら、今日娘の沙羅ちゃんの誕生日だから』

あぁ、そうか。清水さんには、
死に別れた娘の沙羅ちゃんと奥さんが居る。
今日は、家族水入らず一緒に過ごしたいのだろう。

『そんな事より話してごらんなさい。
私でよければ相談に乗るわよ?』

鈴木さんがそう言ってくれた。
俺は、今の気持ちを鈴木さんに話した。
情けないと思いながらもすべて
するとため息を吐かれる。

『龍心ちゃん。それは、恋をしているからよ。
彼女を大切にするあまり
自分の手で汚すのが怖くなったのね』

何とも直球な答えが返ってきた。
恋を……しているから?