倒木の罠を仕掛けに久住がおおむね引き連れて、大広間を後にした。

 残ったのは無月、遊佐、支癸、そして咲乃(さくの)と天音(あまね)。
 氷凪は本来いるはずのない二人をじろりと睨め付け、理由を説明しろと支癸と遊佐に低く呻った。

「いやだって、どーしても咲乃ちゃんが残るって利かないから、ウチのもね・・・」

「・・・・・・」

 乾いた笑いで誤魔化そうとする遊佐とは対照的に、支癸は片手で顔を覆い肩を落として溜息をつく。

 すると咲乃がずいと一歩前に出て、氷凪を冷ややかに見返した。

「わたくしは氷凪様の許嫁ですから、残って当然です。咲乃ひとり護りきれないようでは先も知れますから、いっそのこと討ち死になさいませ」

 瞬間、天音が息を呑み。支葵は石のように固まる。口笛を鳴らして面白がったのは遊佐だった。

「支癸」

 やれやれといった表情で、無月が救いの手を差し伸べる。
 呼ばれた本人は苦虫を噛みつぶしたような顔で、どうにでもしてくれと言わんばかりだ。

「お前が姫に逆らえないのは承知している。あとは氷凪に任せるんだな。・・・咲乃殿」

「はい」

「その覚悟はご立派です。流石ですね」

「恐れ入ります」

 まるで謎かけのような言葉を交わすと、咲乃はにこりと微笑んだ。