「遠子殿は何かと心強そうだから、西宝寺でも頼りになる」

 見透かしたように、ふっと口の端を緩ませた氷凪に、無月も同じように返した。
 死ぬつもりはない。
 死なせもしない。
 
 見えないよう握り締めた拳に、深く固い決意を込めながら。






 正午前。避難する第二陣の一行が発ち、里に残った者は総勢32名となった。
里の男達の中には兵に志願する者もあったが、里を立て直す為に尽力するよう伝え、氷凪はそれを許さなかった。

 全員を大広間に集め戦に望む面々を前に、氷凪は凛としていつも通りの姿を見せた。

「・・・ほぼ予定通り、三日後の明け方には如月の手勢が辿り着くだろう。今回の策は、どれだけ多くの兵を城内に引き込めるかだ。だがその前にある程度の数を潰さなきゃならねぇ。そこでだ」

 石動の里は平坦な地に田畑を拓いて民はその周辺に住まい、城は小高い山の中腹から見下ろすような恰好にあった。
 城といっても天守閣のあるような大層なものではなく、どっしりとした大きな社のような造りで、もう何代にも渡って千鳳院家が護り継いできた。
 その周囲に城詰めの者達の邸宅がいくつも建ち並城び、砦の様相を呈しているが、城までは石段を使うか獣道を辿るしかなく、氷凪はそれを逆手に取った策を考えていた。

「城は森に囲われている。飛び道具は互いに無意味だ。おそらく真っ直ぐに兵が攻めてくるだろう。・・・昇り口付近でまず道を塞ぐ」

「塞ぐ? 木を切り倒すとか?」

「まあな」

 遊佐の問いに、久住が代わりに返答をした。

「巧いこと下敷きにでもなってくれりゃ、なお楽だろ」

「久住、頼めるか」

 氷凪が視線を向けると久住は、誰に向かってモノ言ってる、と不敵に笑った。