「俺を不老にすることは?」

 ややあって無月が静かに問う。

「先代も先々代も普通の人間だったが、氷凪は先祖返りのようだな。・・・それなら俺は血が近いし、不可能じゃないだろう」

「出来ぬ話ではない。・・・じゃが代償は小さくないぞ。〝人〟の摂理から外れて生きねばならぬ」

 幼い霞星の眼差しが、すっと細まった。

「老いぬ代わりに、我らは人の生気を喰らう。氷凪にそなたらの生気を与えればすぐに目覚めよう。・・・じゃが、こやつが同胞を望むとは思えぬな」

「関係ない。人だろうとなかろうと、氷凪が嫌がろうが無理矢理でも一緒に背負ってやる。それが私の役目だ」

 薄い笑みを引き一歩も譲る気配のない無月を、空色の眸がじっと見上げる。
 
「・・・したが恨み言は聴かぬぞ?」

 全ては時のさだめ。遷ろうままに、流れるままに。
 千鳳院の行く末を見届けるも、また運命(さだめ)。 

 霞星は一瞬瞑目し、訪れるだろう新たな未来の息吹を、そっと心の奥で包み込んだ。
 ほんの少し、柔らかい気持ちがしたのは気のせいだったろうか。
 この世界に独りきりでないという、明日からを思うと。

 口許を微かに緩ませ今度は、残りの二人に視線を傾げた。

「支癸に遊佐。そなたらは何とする?」

「どーする?」

「・・・おれに訊くな・・・」

 頭を抱える支癸と、どこか飄々としている遊佐を前に、だが霞星には答えは見えているようだった。

 彼女の中にひとひらの想いが過ぎった。
 何故か。彼等に与えたのでなく、与えられた気がする。
 それは、時の傍観者に徹しきれなかった〝人間らしさ〟故のことだったが、そう振り返るのは遥か先のことだった・・・・・・。