自らを千鳳院と名乗った少女は、呆然と佇む三人に重ねて告げた。

「我を信じぬか?なれば氷凪はこのまま果てるのみ。そなたら次第じゃ」

「そっ」 
「なッ・・・!」

遊佐と支癸が同時に声を上げた。

突如現れ何者なのかの真偽もつかない内に、今度は氷凪の生殺与奪を迫るのだ。さすがの二人も思考回路がまともに機能しない。継ぐ言葉を失ったままで、険しい眼差しだけを霞星に向けていた。

「・・・そなたは何とする無月」

名乗った憶えも無かったが名を呼ばれ、無月はぐっと腹の底に力を込めた。

たとえ目の前の少女が妖しだろうと、氷凪を救えるというのなら何を躊躇うことがあるだろう。命などいくらでも引き換えにくれてやるというものだ。

無月は氷凪の冷えた躰を抱いたまま、霞星を真っ直ぐに見つめた。

「氷凪が目覚めるのなら俺はどうなっても構わない。だが、あとの二人に手出しは無用に願う」

「ほう?」

わずかに眉を上げて霞星が応じる。

「本当に死ぬるぞ。良いのだな?」

「そう言っている」

「じゃ、ねーよっ」
「勝手に決めんな!」

またも同時に声が上がった。

「若ダンナが泣いて喜ぶとか本気で思ってんなら、今すぐオレが殺すよ?」

「ったく、どう考えたってお前らに何かあったら、石動がヤバイだろーがっ」

「かまびすしいのう・・・」

呆れた表情で霞星は面倒そうに吐息をつく。

「したが、三人とも等分に貰い受ければ文句はなかろう」