洞の外はまだ薄暗かった。
 周囲は木々に囲まれ、ここからでは日の出は見られない。上まで昇ればちょうど良い頃合いだろう。

 足場を確保しながら支癸が先導し、氷凪を抱えた無月のために遊佐が松明で足許を照らして、慎重に頂上を目指す。
 
「どうでもいーけど、若ダンナ抱っこして山登りできるよーな馬鹿っ体力のヒトなら、夜見の総領とかフツーに出来ると思うんだよねぇ」

 途中、遊佐がチラと無月を見やって言う。
 
「誰が補佐役だけで、いっぱいいっぱいだって?」

 空席となった総領の次候補については、無月、遊佐のいずれかが候補にあがった。
 重臣達はやはり無月を推す声が多かった。夜見の実務には出られずとも、その実力は過日の戦の折りでも実証済みであるし、指揮官としての能力は誰もが認めるところだ。
 しかし無月は、当主補佐か総領のどちらかしか選ばないとキッパリ断言し、反逆者を処断した功績からしても遊佐が最適任者だと、その一言が決定通告のようなものだった。

「夜見はお前が仕切った方がうまくいく。それだけの事だよ」

 無月はクスリとする。

 年寄りどもは、遊佐では御しがたいと内心渋っただろうが、個性派揃いの夜見を纏めていくには組織ばった自分では合わない。
 もともと遊佐は久住の片腕的な立ち位置にいたのだから、メンバーにしてみても一番落ち着くはずだ。
 当の本人は、朝議やら閣議やら面倒ごとが増えたと溜息しきりであったが。

「氷凪の背中を護るのは私だが、遊佐と支癸には両腕になってもらわないと困る。その為の地位だ、悪くもないだろう?」

「うわー、ナニそれ。悪魔の囁きっぽい!」  

「・・・遊佐。おれら絶対騙されてるぞ・・・」

 後方の二人の会話を背で聴きながら、支癸がぼそっと呟く。



 
 やがて視界が割れ、三人は少し開けた場所に到達した。
 空もすっかり白み始め、東の方角は紅く焼けて見える。うっすらと雲がかかっているが、雨にはならないだろう。